2011年2月21日月曜日

放置自転車をなくすのだ


駐輪場と来たら放置自転車問題に触れねばなりますまい。
ここでいう放置自転車とは、自転車を道端や駐輪場に置いたまま捨ててしまう「置き捨て自転車」のことです。

まずはファクトを把握しましょう。

少し古いですが、東京都のレポートがありました。
「処分台数=撤去したら持ち主が取りに来なかったので廃棄処分した台数」として推移が出ていますね。

東京都では毎年40万台の自転車が撤去から廃棄されていて、増加傾向であることがわかります。
東京都の人口は1300万人なので、人口比でざっくり考えると(乱暴な計算だけど)全国では毎年400万台前後の自転車が置き捨てられていると推測されます。

日本では毎年900万台前後の自転車が新たに販売されてますから、置き捨てた人の半分が自転車に買い換えているとしても、新車需要の2割強が放置自転車の撤去を起点に創りだされている計算です。
これはちょっとすごいな・・・。

ではなぜこんなに置き捨てられてしまうのか?

僕の考えは「撤去されるから安い自転車を買う→安い自転車だから撤去されても取りに行かない、というスパイラルが起きている」です。

もう一度先ほどのグラフを見てみましょう。

グラフ中には廃棄台数だけでなく、撤去台数と返還台数が載っています。
1994年(平成6年)くらいからずっと、返還台数は50万台弱でほぼ一定しています。
その一方で、撤去台数は1994年の73万台から2006年(平成18年)では92万台と実に3割近く増え、それに比例して廃棄台数も1994年の32万台から43万台に急増しているのがわかります。
つまり、撤去されても取りに来る持ち主の数は「一定割合ではなく」「一定数しかいない」、すなわち撤去台数を増やせば増やすほど廃棄台数が増えてしまう、というのが現状なのです。

なぜ取りに来ないのか?
「返還にかかるコスト > 撤去された自転車の残存価値」となっているからです。

撤去自転車を返してもらうのに、新宿区では3000円、中野区や豊島区では実に5000円払う必要があります。
ここで、各国の自転車の平均販売単価をご覧ください。


日本ドイツオランダフランスイタリア
1.1万円4.6万円7.9万円3.3万円3.4万円


2004年のデータなので現時点ではユーロ下落の影響で差は縮まっていると思いますが、それにしても日本の平均単価1.1万円て。。。
よほどの新品でない限り、1万円で買った自転車を5000円の費用と時間と手間をかけて返してもらいにはいかないでしょう。
悲しいですが、これが現実なのです。

自転車の価格に関しては、政治がどうこうではなく、我々メーカーが「高くても欲しくなる自転車」を作るのが第一ですね。
率直に言って、日本の自転車業界はメーカーも販売店も単価の下落を嘆くばかりで、単価を押し上げる自助努力がまったくもって足りないと思っています。

その上で提言。

自治体は撤去一辺倒の放置自転車対策を見直すべきです。
「撤去を増やすと廃棄が増える」のです。
東京都のレポートには「撤去を増やしたから放置(駐輪場以外の駐輪)が減った」との記述がありますが、下のグラフを見ると駐輪場の収容能力自体も増えているので、撤去の強化がどれだけ駐輪場利用を促しているのかわかりません。
もちろん一定の効果はあるとは思いますが、コスト(保管所の運営や人件費)に見合っているかというと甚だ疑問です。

どう見直すべきか?
一つは駐輪スペースを増やすことです。
自転車の本質を考えると、大規模な駐輪場が一箇所にあるよりも、小規模な駐輪場が街中いたるところにある方が便利です。
どうも役所というのは駐輪場というと「しっかりした箱を作らねば」と思ってしまうようですが、小規模であれば前回書いたように一定規模以上の商業ビルには駐輪場の設置を義務付けるとか、タイムズ24のような時間貸し駐車場を数台分借りあげて公的な駐輪場として運用するとか、民間の駐輪場設置に補助金出すとか、まだまだ工夫の余地は大きいと思います。

・・・と思ってたら、実例がありました。
「放置自転車ゼロに 寺町通四条下ル、市助成で駐輪場新設」ですって。
元記事魚拓

それにさあ、撤去する方もされる方も嫌じゃないですか。むかつくし。
やっぱり人間は北風より太陽ですよ。

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irukaは来週からまた中国の工場にいって試作第三弾の製造に着手します。「高くても欲しくなる自転車」作りますよ。

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写真は知人夫婦に生まれた赤ちゃん。生後3週間。カワユス。萌え死。


2011年2月15日火曜日

丸の内に駐輪場を作るのだ



今回は自転車レーンに次いで重要な自転車インフラ「駐輪場」について。

東京において、駐輪場問題は大きく分けて2種類あります。

1. 主に山手線内、通勤先における駐輪スペース
2. 主に山手線外、居住地駅前における駐輪スペース

前者は主に家からオフィスまで直接自転車通勤する人向けの、後者は主に家から最寄駅まで自転車+オフィス最寄駅まで電車通勤する人向けの問題ですね。
今日は前者、都心の駐輪場問題について書いてみます。

千代田区を見てみましょう。

千代田区は人口4万人の非常に小さな区ですが、それは仮の姿。
昼間人口すなわち在勤者の人口はなんと85万人を超えます。
日本の総人口の150分の1が、皇居を除いた実質わずか10km2のエリアに毎朝押し寄せてきてるわけです。
・・・そりゃ通勤ラッシュにもなりますわ。

さらにそのうち4分の1強、23万人が、東京駅前のいわゆる丸の内・大手町エリアに集中しています。
逆に言えば、丸の内・大手町通勤者に自転車通勤が広がれば、世界に名高い東京の通勤ラッシュも少しは緩和されるでしょう。

ところが、です。
次の地図の青ピンは千代田区の区営駐輪場の場所を表しています。
ご覧のとおり区北縁部に集中していて、丸の内・大手町エリア(地図上の赤丸部分)には皆無であることがわかります。
しかも駐輪可能台数を合計しても、たった1300台分にしかなりません。



では民間はどうか。

丸の内大手町は言わずとしれたビル街ですが、なんとなんと、丸の内を代表する2大オフィスビル、丸ビル&新丸ビルには、いずれも駐輪場がないのです(三菱地所さん頼みますよ!)。
僕も前職で大手町に通っていた時はビル(大手町ビルヂング→これも三菱地所物件)に駐輪場がなかったのでダホンを折りたたんで席まで持っていっていましたが、クロスやロードで通勤していた同僚は盗難や撤去を心配しながらビル周辺の歩道に停めていました。

・・・これが現実なんですねー。

ではどうするか。
以下はまだラフですが、たたき台のアイデアを書いておきます。

ゴールを、丸の内・大手町の昼間人口23万人の5%(とりあえず、ね)12000台分の駐輪スペースを確保すること、としましょう。

自転車先進都市であるアムステルダムには中央駅前(東京駅に相当)に8000台分の巨大駐輪場があります。
東京駅にもそんな駐輪場があるに越したことはありませんが、現実的にスペース確保は至難でしょうし、自転車の本質的な利点を考えると、簡素・小規模な駐輪場(金属バーに自転車をくくりつけるだけ、みたいな)がユビキタス的にたくさんある方が使いやすいと思います。

話が変わるようですが、千代田区には「附置義務住宅」という制度があります。
「延床面積3000m2以上の建物を作るときには、一定面積以上の住宅を併設しなければならない」(さもなければお金を払え)というものです。
港区や新宿区にもありますが、要は自区内の居住人口を確保&職住近接を実現しよう、という制度ですね。

これを応用して「延床面積3000m2以上の建物に対して、延床面積の0.3%相当の駐輪場設置」を義務づけます

例えば、前述の丸ビルは延床面積16万m2ですので、480m2分の駐輪場を作ってもらいます。
地上の公開空地にスペースを確保してもいいですし、無理であれば駐車場を転用します。
駐車場は通常1台あたり5m×2.5m=12.5m2ですから、駐車場38台分を転用すれば足ります。
丸ビルは元々400台分の駐車場がありますので、1割弱を転用すれば自転車320台分(通路含めて1台あたり1.5m2必要として)の駐輪場が誕生する計算です。

新丸ビル:延床19.5万m2→自転車390台分確保
大手町ビル:延床11万m2→自転車220台分確保
新東京ビル:延床10.6万m2→自転車210台分確保
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など、おおよそ各ビルの駐車場の1割強を転用してもらえば、丸の内・大手町エリア全体で12000台分の駐輪スペースは十分確保できると思われます(三菱地所だけでも30以上のビルがあります)。
附置義務住宅制度も自治体の条例ですから、区長または都知事がリーダーシップを発揮すれば実現可能でしょう。

ただ一方で(駐車場の転用が多いでしょうから)駐車場は地下にあるので、入場時のセキュリティや、つい面倒で地上の歩道に置いてしまうといった問題もあり、まだまだ工夫が必要とは思います。
まあ、たたき台ということで。

*と書いた後で、新丸ビルに月額契約制の駐輪場(月1.7万円!)ができるとのニュースを見ました。上記「駐輪場がない」という記述は厳密には正しくありませんが「誰でも使える駐輪スペースがない」という意味では誤っていませんのでそのままにしておきます。

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写真は表参道のビル内イルミネーション。


2011年2月2日水曜日

自転車レーンを作るのだ


前回エントリの続き。
自転車は車道がデフォ。歩道は歩行者が危ないし法的にも原則として歩道走行は禁止されている。
なんだけど子載せママチャリや高齢者が車道は怖いというのも理解できる。
かといって歩道を歩行者用と自転車用に分けても(たまに見かけるけど)どうせ入り混じっちゃうからムダ。
よって車道に自転車レーンを作ろうよ、という話。

まず、ニューヨークの自転車レーンを見てみましょう。
かの街はかつては自転車に冷たい街として有名でしたが、ブルームバーグ市長に変わってからここ3年で300km(!)の自転車レーンが新設されるなど飛躍的に自転車インフラが整備され、自転車利用者数が2005年比で2倍近くになっているとのこと。





すごいでしょ!上の動画の例では(0'24あたりから)
 |歩道|路肩(自動車の荷卸など)|自転車レーン|車道|
下の動画の例では
 |歩道|車道|自転車レーン|
という並びになっています。
この形であれば、自転車乗りの最大の敵・路肩に駐車してる車(車道にはみ出て追い越さないと通れず、いつもヒヤヒヤ)を気にする必要がありません。

自転車乗りにとっては夢のような環境ですが、一方で、これ作るの大変だろうなあというのも想像できる。
車線や中央分離帯をつぶすわけだから、工事にかかる時間と費用、自動車関係者(運送会社とかタクシー会社とか)の反対など政治的なしがらみ、などなど。

次はロンドン。
こちらも昔は自転車後進都市だったけど、新市長の肝いりで自転車インフラ整備が進み、主に自転車通勤用途を想定してロンドン中心部から放射状に伸びる12本の「バークレイズサイクルスーパーハイウェイ」をはじめとした延べ900km(!!)の自転車レーンを建造中とのこと。



で、これがそのスーパーハイウェイ。



ハイウェイ?道の端の色が違うだけじゃね?

そう、ロンドンの自転車レーンの多くは車道の端1.5mの幅を青く塗ってあるだけです。実はニューヨークもほとんどはこんな感じ。
幅が十分に広い道では車道と自転車レーンを明確に分けてあるけど、狭い道では車道の一部に自転車レーンが重なってます。

これでいいんですよ、これで。

もちろん上のニューヨークの例みたいな専用レーンの方がいいに決まってるけど、1kmしかない完璧完全なレーンを時間をかけて作るよりも、「自転車はここを走る」「自動車も乗り入らざるをえない状況では自転車を優先する」「駐車禁止の厳格運用」の三点だけを明確に決めたレーンを50km100km速攻で作った方が全ての点において有用です。
事実、ロンドンの自転車利用者数はこの10年で2倍以上増えたと。

東京の現状はどうかというと、幡ヶ谷に色分けしたレーンがあるけど、たった2.2kmという短さ。ないよりはマシだけど、まあ・・・意味ないよね。

そこで提案したいのが「東京サイクルスーパーハイウェイ」。
山手線内側および東京駅周辺の主要幹線道路(青山通り、新宿通り、靖国通り、外苑東/西通り、明治通り、目白通り、本郷通り、白山通り、日比谷通り、桜田通り、内堀通り、外堀通り、中央通り&第一京浜)にロンドンのような1.5m幅の色分け自転車レーンを作るのです

たぶん総延長50kmくらいかな?
作り方=塗るだけ。
(一部、路肩と車道の段差修復や信号機の見直しなどの工事、周知徹底のためのコストは発生すると思いますが)

国道都道が混じってたりそう簡単ではないことは理解してますが、ニューヨークもロンドンもパリも市長交代が大きな転機だったように、東京も都政が動けば十分に可能なはず。

もちろん幹線道路以外や山手線外側にも広げた方が良いけど、まずは東京中心部に一気呵成にレーン網を作ることが第一だと思うのです。

ということで僕の「死ぬまでに実現したいことリスト50」の一つ「東京山手線内の幹線道路に総延長50km以上の自転車レーンを作る」、本業のiruka製造販売と共に行動に移していきたいと思ってます。

*ちなみにロンドンの「バークレイズサイクルスーパーハイウェイ」という名前は、金融グループのバークレイズが命名権を取得して名付けたそうです。市も企業もイケてるねー。

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冒頭の写真は冬の代々木公園の空。