2011年6月22日水曜日

太陽光発電は好きですか?


太陽光発電は好きですか?
僕は好きです。

どれくらい好きかというと、総発電能力3.7kWという個人宅としては割と大きい部類の太陽光発電パネルを自宅に導入しているくらい好きです(また、発電以外にもパッシブソーラーという太陽熱を利用した空調補助システムも入れています)。

そんな僕ですが、孫正義ソフトバンク社長と菅直人首相が、これほどまでに太陽光発電が好きな理由が理解できません。

6月某日、晴れているときの自宅の発電状況です。
2.4kW、すなわち2400W発電してますよ、ということですね。
僕は冷房をほとんど使わないので、夏でも支障なく生活できる発電量です。



日が陰って1.7kWに落ちました。



こちらは曇りで夕方近くのとき。0.1kW。
冷蔵庫も動かせません。



日本における太陽光発電の稼働率は12%、つまり一日24時間のうち3時間弱しか発電してくれない計算ですが、発電中も電力が大きく変動するのがわかります。

発電量が必要電力を下回ればブレーカーが落ちてしまいますし、そもそもこんなに電力が変動すると電気機器が壊れかねません。どうするのか?

そうならないよう「パワーコンディショナー」という機械が活躍してくれます。

例えば1000Wの電力が必要なのに太陽光からの供給が300Wしかなくなったとすると、パワーコンディショナーが瞬時に不足分の700Wを東京電力が供給している電力から引っ張って1000Wにした上で家の中に流すわけです(逆に必要電力1000Wに対して太陽光が1200W発電していたら、余りの200Wは電力会社に流して買い取ってもらいます。これが「余剰電力買取制度」です)。

では、東京電力が停電になったらどうなるのでしょう?

太陽光発電からの電力供給は自動停止します。
電力会社の電力がないと、家の中に流す電力を安定させることができないからです。

僕が自宅に入れている三菱電機の太陽光発電システムの注意書きから抜粋してみましょう。


停電した場合、太陽光発電システムの運転は自動的に停止しますが、パワーコンディショナ本体にある『運転切換スイッチ』を自立運転に切り換えることで、パワーコンディショナ本体にあるコンセントより発電した電力をご使用することができます。

<重要>パワーコンディショナから供給される電力は、日射量により出力が変動するため不安定な電力となります。よって、電力供給の変動により、損傷する恐れのある機器や使用上問題がある機器(バッテリーのないPC・メモリー機能のある機器等)への接続はしないようにしてください。

<警告:特に生命に関わる機器への接続は、厳禁とします。>



太陽光発電だけになると不安定な電力で機器を壊したり場合によっては生命に関わる危険性があるので、メーカーとしては責任とれないから自動停止するよと。
使いたければ自己責任でコンセントにつなぎ直して電力使ってくれよと。

disってるわけでもなんでもなく、太陽光発電とは(風力も同じですが)こういうものなのです。
こういうもの、というのは、無尽蔵かつクリーンなすばらしいエネルギーですが、最大発電量と同じだけのバックアップ電力がないと実用に耐えない、ということです。

太陽光発電の普及が進み、東京電力管内の夏の最大電力5500万kWのうち、3割強にあたる2000万kWが太陽光で発電できるようになったとしましょう。
実にすばらしい。
ところがこの2000万kWは、曇ったり雨が降るとゼロ近くに、そしてもちろん日が沈むと完全にゼロになってしまいます。
従って東京電力は、太陽光で最大2000万kW発電できるようになったとしても、いつでも2000万kW発電できるだけの別の手段を確保しておかなければなりません。
それはつまるところ原子力か火力です。現時点では「いつでも安定して」発電できる手段は、僕が知るかぎり原子力か火力しかないからです。

橋下府知事は関西電力に「原発をやめて太陽光など自然エネルギーにシフトすべき」と言っていますが、関電は原発で5割の電力を賄っていますから、もし本当に原発をやめるなら、太陽光を増やすだけでなく、「節電で総電力を2割減らした上で、火力の発電容量を3割増やす」というようなことをしなければなりません。
太陽光を増やすだけで脱原発が実現できるかのように言うのは明らかなミスリードです。

もう一つ、菅首相が孫社長の強力な後押しを受けて「固定価格全量買取制度」法案を成立させようとしています。
自然エネルギーで発電した電力を全て(余った電力ではなく発電した電力を全て)固定価格で電力会社に買い取らせるという法律です。

これは考えてみるとすごい制度です。
ソフトバンクは太陽光発電事業を始めるようですが、この制度があれば、普通の商売と違って営業活動が一切必要ありません。電力会社が「全量」買い取ることが義務付けられますから。
また、普通は競争相手の出現や大口顧客の要求などで値下げ圧力がかかりますが、その心配もありません。「固定価格」ですから。

まあ太陽光パネルの普及は進むでしょうが、同じ制度を導入して太陽光パネルの設置が増えたドイツとスペインでも太陽光発電の割合はそれぞれ2%と3%にとどまっていることは留意すべきです。
また、読んでいただいてわかるとおり、エネルギー政策というのは、それぞれメリットデメリットある発電方法をどう組み合わせるかというポートフォリオの問題ですが、孫社長が口にするのは太陽光のことばかりです。
諸外国では太陽光より風力の方が活用が進んでおり、ドイツでは総電力の8%、スペインでは同20%にまでなっているにも関わらず、です。

ちなみに法案の買取価格は、太陽光発電が1kWhあたり40円台、その他の自然エネルギー発電が同15-20円という話で進んでいるようです。
おや、太陽光だけ買取価格が高いんですね。

ここで冒頭の問いに戻ります。
孫社長と菅首相はなぜこれほどまでに太陽光が好きなのか?

孫社長はポジショントーク、菅首相は孫さん人気にあやかろうとしているだけと感じてしまう僕は、ひねくれているのでしょうか。
もっとも、お二方ともご自宅に太陽光発電を入れてなくて実態を知らない、という可能性もありますがw

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橋下府知事は「原発を動かさなくて済むように冷房を止めよう」と言い始めました。「冷房か原発か」というアジェンダ設定は、火力増加の視点が欠けているものの、議論しやすくて良いですね。

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冒頭の写真はアイスランド南海岸沿いにて。教会がポツンと。アイスランドの写真は3月に行ったのを小出しにしてきたんだけど、さすがに暑くなって違和感出てきたw


2 件のコメント:

CWF さんのコメント...

小林さん

いつも楽しくブログ拝見してます。
今のソーラーシステムは、電力会社からの電力供給ありきで構築されているから、こういった有様なのでは?
蓄電システムや他の自家発電システムをソーラー発電と組み合わせたらもお少し違ったものが出来ないですかね。
インフラ整備って巨額のお金と許認可が必要になるから、結局官僚と官僚寄りの政治家の美味しいおかずになってしまいますよね。
孫さんはそういった縛りの無いものをやって儲けようとしているんではないですかね?
私はあまり詳しくは無いけど、ドコモに真っ向勝負をかける孫さんならきっと何か秘策があるのではないでしょうか?

小林正樹 さんのコメント...

太陽光も風力も蓄電技術が未熟なために電力会社の電力に頼らざるをえない、という認識です。世界中のバッテリー・電池を集めても世界の電力を10分しか供給できないとか(ゲイツ曰く)。
孫さんも純粋な動機で始めているとは思いますが、自社で資金を調達してリスクをとった通信事業と違い、固定価格買取では全家庭が電気料金上乗せ分を負担する、いわば補助金ビジネスと同じですから、それにしては議論が致命的に足りない(太陽光重視でよいのか、など)と思います。