2013年12月12日木曜日

東京都自転車安全利用推進計画パブリックコメント

東京都が「自転車安全利用推進計画(案)」を発表し、明日12月12日を期限としてパブリックコメントを募集していました。

というわけで僕も書いて送ってみた。
気持ちが入って長くなってしまった。

みなさんもパブコメ送りましょう。
内容に賛同いただける方は、このエントリの全文または一部をコピペして使ってくださっても構いません。

以下全文です。

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当計画案は、総論として「東京において自転車の一層の活用を推進するための計画」としては著しく適格性を欠いていると考えます。
当計画案にもとづく限り、東京はこれからも「先進国の首都としては世界最悪の自転車後進都市」の汚名を挽回することはできない、と暗澹たる気分になりました。
一都民として、大変残念です。

しかしながら、同時に、私は東京都の行政に携わる方々の優秀さ・聡明さ・公正さに全幅の信頼を置いております。
今からでも、当計画案を適切に修正または追加計画案を作成することで、自転車活用をひとつの軸として、行政と都民一丸で東京を世界最先端最先進の環境都市に進化させることができると固く信じております。

以下、提案を記載いたします。
参考にしていただければ幸いです。

1. 利便性・利用度を評価する数値目標を追加すべき
当計画案では、冒頭に「第3 数値目標」として「平成27年中に自転車乗用中死者数25名以下、自転車事故件数13,000件以下、駅前放置自転車数30,000台以下」の3点が掲げられています。
これらの数値目標そのものには異論はありませんが、上記3点は「自転車の利用を妨げ、制限する」ことによっても達成できてしまい、「自転車の一層の活用を推進するための」目標設定としては不十分です。
例えば、千葉市は同市の「自転車走行環境整備計画案」における達成目標として「整備延長(整備率による評価)、自転車に関係する事故件数の減少(整備前後の事故件数による評価)、歩行者・自転車の安心感の向上(アンケート調査による評価)、自転車の利用促進(整備前後の自転車交通量による評価)」の4点を掲げています。
東京都においても、千葉市のように、先の3目標に加えて利便性・利用度の向上を評価する目標設定がまず必須であると考えます。

2. 自転車専用通行帯の整備を再優先課題として具体的な目標と工程案を示すべき
東京が他の自転車先進諸都市と最も決定的に異なり、自転車後進都市たらしめているのが、自転車専用通行帯いわゆる自転車レーンがほぼ皆無であることです。
ロンドンには総延長900km、ニューヨークには同675km、パリには同500kmにおよぶ自転車レーンが整備されていますが、東京都にはわずか10km前後が存在するのみです(自転車通行可の歩道、いわゆる自歩道は含みません)。
警察庁の通達において「自転車は車道走行が原則であり、歩道通行はあくまでやむをえない場合の例外」と明記されているにも関わらず歩道を走る自転車が後を絶たないのは、車道における自転車走行エリアが明確に区分・確保されておらず、不安を感じる利用者が多いことが最大の要因のひとつでありましょう。
自転車レーンの整備は、東京都において自転車の利便性と安全性の双方を高めるための最重要にして最優先の課題であると認識すべきです。
にも関わらず、当計画案において自転車レーンに関連する記述はわずかに「4(1)自転車利用環境の整備」において「道路の構造や利用状況等を踏まえ、自転車道、自転車レーン(自転車専用通行帯)、自転車ナビマーク等の適切な手法を選定した上で、歩行者、自転車、自動車それぞれが安全に通行できる環境を整備します」にとどまるのみで、何ら具体性がなく、その重要性が理解されているとは全くもって考えられません。
前項に述べた利便性・利用度の向上を評価する数値目標のひとつに自転車レーンの整備率または総延長距離を設定し、その具体的な整備工程案を盛り込むべきであると考えます。

3. 都が主体となって整備計画を推進すべき
当計画案において、全編にわたって東京都は「協議会を設置する」「区市町村等の連携を促す」「情報を提供する」「整備を促す」など、「黒子」の立場であるかのような記述が目立ちます。
しかし、例えば明治通りで自転車レーンを整備しようと考えた場合、山手線の内側だけでも港区・渋谷区・新宿区・豊島区と4つの区にまたがっており、全ての区が同じタイミングで連続性・統一性をもって環境を整備することは極めて困難、いや事実上不可能であると思われます。
ニューヨークではブルームバーグ市長、ロンドンではジョンソン市長という、東京都でいえば都知事にあたる人物が先頭に立ち、全市をあげて自転車利用環境を一気呵成に整備してきました。
東京都においても、これまでのような「区市町村任せ」の姿勢を根本的に改め、都が主体となるべきです。
当計画案においても、利用環境整備に関する各項目に関しては全面的に「関係区市町村および民間の協力の元、都が主体となって整備する」という趣旨に書き換えるべきであると考えます。
東京オリンピックの招致成功でその実力が証明されたとおり、都が本気を出せば、東京は世界一の自転車先進都市に生まれ変わることができると確信しております。

以上

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冒頭の写真はオーストリア、インスブルック。イン川ほとり。ヨーロッパの自転車インフラに思いを馳せつつ。


2013年11月28日木曜日

チャーハンが半球形であるべきたったひとつの科学的理由

本エントリは、記述自体は科学的に正確であると思いますが、そもそも本質的に死ぬほど下らない内容であることをあらかじめお断りしておきます。

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まずはこちらの写真をご覧いただきたい。
渋谷は道玄坂の台湾料理店・麗郷のエビチャーハンである。


飲食店激戦区渋谷において50年以上営業を続けている老舗だけあって、チャーハンをはじめ料理の味にハズレはない。

が、今回注目いただきたいのは、チャーハンの形状である。

おたまによって型押しするように盛られることで形作られた、完璧な半球形。

僕はこの、半球形のチャーハンが大好きだ。
美しく、そして懐かしい。近所のラーメン屋さんの出前が何よりのご馳走であった幼少期の、ノスタルジックな思い出のアイコンなのかもしれない。

しかし残念なことに、どうも最近この形状のチャーハンに遭遇する率が低下しつつある。
主に若い料理人の間で「パラパラ感がなくなる」「安っぽく見える」などの理由で人気がなく、逆に無造作に盛るだけのスタイルが増えているようなのだ。

なんか寂しいけど、そう言われるとそうかもなあ、などとつらつらと(チャーハンを食べながら)考えていたところ、インサイトを得ました。

我発見せり。ユリイカ。

やはりチャーハンは半球形に盛られるべきである」と。

チャーハンとは何か。炒めごはんであります。
では聞こう。おいしい炒めごはんの条件とは何だ。
パラパラ感、調味のバランス、ごはんのほどよい硬さ、など皆さんなりの意見がありましょう。

僕は「熱さ」を第一に挙げたい。

極強火によってしっかり炒め上げられた熱々のチャーハンを、はふはふ言いながら食べる。
これぞチャーハン、これぞ炒めごはんの醍醐味なのである。

物体の放熱量はその表面積に比例する、という物理法則がある。
同じ体積の物体であれば、表面積が大きいほど放熱量が大きい=冷めやすい、ということだ。

アフリカ象は大きく薄い耳を備えることで「表面積を稼ぎ」、体が熱せられすぎるのを防いでいる。
逆に北極アザラシなど寒冷地の動物は体の突起を少なくすることで「表面積を削り」、放熱を小さくしている。



結論を書こう。
半球形チャーハンは、皿に盛ったときに体積に対する表面積の比が最も小さい、すなわち最も冷めにくい形状のチャーハンなのである

以下、具体的な数値を挙げる。

左のチャーハンAは半径6cmの半球形、右のチャーハンBは半径8cm*高さ2cmの平たい円柱形である。

体積はどちらも452cm3(小数点以下の差異は目を瞑っていただきたい)だが、チャーハンAの表面積339cm2に対して、チャーハンBの表面積は559cm2となる。
その比は1.65、つまり、チャーハンBはチャーハンAより1.65倍の早さで冷めてしまう、逆に言えばチャーハンAは熱さがチャーハンBの1.65倍長く保持されるということなのだ。
数値での比較は円柱形のみにとどめるが、半球は体積が等しければ直方体、立方体、四角錐、三角錐などあらゆる形状よりも表面積が小さい。

おわかりですね。
半球形は、熱々チャーハン好きが崇め守り続けていくべき、聖なるフォルムなのである。

・・・チャーハンについてはもっと語りたいことがあるが、長くなると色々な意味でアレなので、このあたりで筆を置くことにする。

半球形チャーハンに幸あれ。

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冒頭の写真はインスブルック郊外、ノルトケッテ南側斜面。


2013年11月15日金曜日

レジェンドに会う

irukaの試作第四弾は、仮にO社と呼ぶが、ある台湾メーカーの中国工場で作っている。

今や世界最大の自転車メーカーとなったGIANTをはじめ、台湾の自転車会社の多くは1960年代・70年代に設立されている。
1966年に設立されたO社も、その例外ではない。

彼らのコミュニティの中で、創業者世代は1st Generations、その息子・娘たち後継者世代は2nd Generationsと呼ばれている。

台湾がまだ貧しかった頃に起業した1st Generationsは、多くがいわゆる叩き上げの人々だ。
GIANTの創業者はウナギの養殖業から、BD-1で有名なPacificの創業者は教師からの転身であるなど、職歴も学歴も様々である。
既に息子や娘に経営を任せて引退したり会長に退いたりした1st Generationsも少なくないが、今でも彼ら同士の人間関係が台湾における自転車ビジネスを大きく左右していると聞く。

小さな部品工場からスタートして、O社を台湾有数の折りたたみ自転車OEMメーカーに育て上げた創業社長W氏もまた、1st Generationsの代表的な人物であり、レジェンドの一人である。

W氏の長男にして現在中国工場のGMを務めるE氏は、2nd Generationsの典型だ。

2nd Generationsは、皆スマートでかっこいい。
多くが欧米や日本の大学の留学経験があり、バイリンガルは当たり前、オーダーメイドのパリっとしたスーツを着こなし、物腰も一様にジェントルである。
1st Generationsの期待と愛情を一身に受け、お金をかけてエリートとして育てられてきたのだ。

E氏とは以前一度食事をご一緒したが、流暢な英語を操り、日本語もわずかだが理解する、知的なジェントルマンである。体にぴったり合ったスーツはいかにも高価そうで、実に洗練された印象であった。

しかし、これまで創業者W氏にはお会いする機会がなかった。
1st Generationsの多くは本社のある台湾で過ごす時間が長いし、海のものとも山のものとも知れない新規ブランドとの取引の場にいちいち顔を出さないのだ。

ところが。
今回お会いできました。

たまたま中国工場に来ていたW氏が、僕たちが作業していた部屋にふらっと現れたのだ。

特に目的があったわけではなく、irukaを見て「なかなかおもしろいじゃん」みたいなことを言って、直立不動の社員たちに二言三言アドバイスめいたことを言って、冗談を言って、ガハハハと笑って、ふらっと出て行って、両手いっぱいに部品類を抱えて戻って来て「これ参考にしろよ」みたいなことを言って、またふらっと出て行った。

ランチをご一緒して、記念写真を一枚。


なんか、かっこよかったなあ、レジェンド。
体操着みたいなTシャツの上に作業服と人民服の合いの子のようなジャケットを着て、さらにその上に丈の合わない背広を着て(スーツより背広という方がしっくり来る)、洗練という言葉の対極にいる感じだけど。
何と言えばいいのだろう、月並みだけど、内面の魅力というか。

男はかくありたいものです。

レジェンドにご馳走してもらったスッポンの炒め。生姜とニンニクがこれでもかというくらいきいてて美味だった。
ごちそうさまでした。


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冒頭の写真はインスブルック旧市街中心部、黄金の小屋根。神聖ローマ皇帝が作ったそうです。


2013年11月14日木曜日

データと実物、そして試作と量産の間に横たわる暗く冷たい溝について

タイトルをムダに村上春樹調にしてみましたがいかがでしょうかダメですかそうですか。

中国太倉の工場で進んでいるiruka試作第四弾の途中チェックのため、先週現地に行ってきました。

いつも午後便で行くので、着いたらばんごはん。今回はモンゴル風羊肉しゃぶしゃぶに舌鼓。
この鍋、ガスも電気も使わないんですよ。中央の煙突みたいな筒の中に炭が入ってて、上の蓋を開け閉めして火力を調整するのです。んまかった。羊アイシテル。


二日目三日目は工場に詰めて、あれこれ作業&指示。


工場側でスタックしていた点はほぼ解消できたので、たぶん年内には完成して引き取りに行けると思います。
んで、それを元に諸々検証して量産のための図面起こしに進むわけですが、現時点で既にわかっていることがあります。

それは【もうちょいゆるく作らにゃいかんな】ということ。

詳しくいうと、量産では製造誤差があることを前提として、それでも狙いどおりの形状・機能になるように、より冗長性をもたせた設計にする、ということです。

例えば、折りたたんだときにデータ上では前輪と後輪がぴったり平行に重なるようになるはずが、試作第四弾の途中チェック段階ではどうもずれちゃってる。
どこか一ヶ所が致命的に間違っているというわけではなく、0.5ミリずつ大きさの違うパーツ同士が0.5°違う角度で溶接された結果、誤差が蓄積されて末端では結構な違いになってしまう、という感じ。
これがデータと実物の間の溝。

それでも試作は一台だけなので、ずれた箇所を丁寧に調整していけば最終的にはデータどおりに完成させることはできる。
しかし量産では百台単位で作るわけなので、一台一台の調整にそんなに時間をかけるわけにはいかない。ていうかできない。
これが試作と量産の間の溝。

というわけで、量産に進むためには、製造誤差があっても成り立つような「ゆるめの」設計が必要になるわけです。
具体的には、折りたたみヒンジの可動域を広げておいたり、パーツ間のスペースを大きくしたり、内部機構をよりシンプルにしたり。
一点モノを作る「工房」と、マスプロダクトを作る「工場」では、設計思想そのものが違うということですね。

ともあれ全体的なジオメトリやルックスは良い感じ。
カッコいい自転車になるのは間違いない。

続報を待て!

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毎度内容と関係ない冒頭の写真はドイツ最高峰、ツークシュピッツェにて。標高3000メートルの山頂までケーブルカーで一気に登る。


2013年11月5日火曜日

サイクルモードデビュー

製品もできていないのにw、サイクルモードでデビューしてしまいました。

以前から色々と教えを請うてお世話になっているNPO自転車活用推進研究会(自活研)さんから光栄にもお声がけいただき、同会が運営するブースのトークイベントで30分間、プレゼンとフリートークをやらせていただきました。

サイクルモードというのは、毎年この時期に幕張メッセで行われる、日本最大の自転車イベントです。
自転車メーカーやパーツメーカーを中心に200近い企業・団体が出展し、期間中には3万人を超える人々が訪れます。


irukaの開発状況、創業から現在までの経緯、irukaを通じて何をしたいのか、東京の自転車インフラ政策提言などの話をパワポを使ってプレゼンさせてもらい、自活研理事の内海さんとタレントのサッシャさんからツッコミを入れていただきました。



ガラガラだったらどうしよう・・・と心配してたのですが、ありがたいことに満席に!
立ち見してくださる方もいらっしゃいました。うれしいです。正樹感激。


内海さん、サッシャさんと。


会場になぜかせんとくんが。
せんとくん大好きなんだ。きもかわいい。ふなっしーやくまモンなんて目じゃないね。
記念撮影。


というわけで、ばっちり楽しませていただきました。
貴重な機会を与えてくださった自活研の小林成基理事長、内海理事、応援に来てくれた友人のみなさんにこの場を借りてお礼申し上げます。
来年こそは、出展者としてブースでお会いしたいと思います。←1年ぶり3度目

では、プレゼンの様子を動画でどうぞ。irukaシルエットチラ見せもあります。



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毎度本文と関係ない冒頭の写真はオーストリアのインスブルック近郊、パッチャーコーフェルからノルトケッテを望む。


2013年10月29日火曜日

自転車議連討論会

恥ずかしながら実は僕も最近その存在を知ったのですが、自転車活用推進議員連盟(通称:自転車議連)という組織があります。

自民党の元代表であり現法務大臣である谷垣禎一さんを会長として、日本における自転車のさらなる活用を訴える国会議員が、党の垣根を越えて政策提言を行うという集まりです(メンバー一覧はこちら)。

昨日その自転車議連が、自転車レーンなどインフラ整備促進と自転車担当相の設置を軸とした提言書を政府に提出するにあたって公開討論会を開催するとのことで、僕も参加してきました。

提言書の案文(毎日新聞の記者さんがTwitterに画像をアップしてくれています→その1その2その3)を事前公開し、議員メンバー・有識者・一般参加者が意見を述べるという進行です。

永田町の衆議院議員会館へ。初めて来ました。

パスを受け取って地下の大会議室に。

平日夕方にも関わらず、会場には300名を超える一般参加者が。
当初は定員100名強の予定であったところ、希望者が殺到したため直前に大きな会場に変更したとのこと。

谷垣会長のご挨拶。熱心なサイクリストとして有名です。

提言書の読み上げに続いて議員メンバーがコメントを述べた後、一般参加者にも発言の機会が。

僕も発言させていただきました。

僕は提言書案の内容そのものには100%賛成ですが、提言の実効性を担保するカギは「東京都をどう動かすかに尽きる」と思ったので、その旨を発言しました。

東京都は先進国の首都としては自転車インフラは最貧であると言われていますが、千葉市さいたま市などが相次いで自転車インフラ整備を打ち出す中、日本国内ですら大きく遅れをとりつつあります。
東京が変わらないかぎり、日本が変わったとは言うことはできません。

僕に続いて自転車ツーキニストとして有名な疋田智さんも具体的な例を上げて都と国の齟齬が大きな問題であると指摘する発言をされ、拍手を受けていました。

・・・もちろん具体的な成果が出るまでまだまだ時間がかかるとは思いますし、平坦な道でもないとは思います。
ただ、これは間違いなく日本の自転車政策にとって大きな一歩になるでしょう。

さあ、環境整備は政治にも動いていただくとして、僕ら民間は、理屈抜きに自転車を楽しみたくなるような、イケてる製品・イケてるサービスを作ることが本来の使命だと思ってます。
というわけで、来週また中国に行って、iruka試作第四弾を完成に向けて進めてきます。

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の前に今週土曜、自転車議連の事務局でもある自転車活用推進研究会というNPOのお声がけで、日本最大の自転車イベントであるサイクルモードのトークイベントに登壇させていただきます。
irukaは完全にはお見せできませんが、シルエットチラ見せと創業から現在に至るまでの経緯、irukaを通じて何を実現したいのかというビジョンをパワポを使って語ります。
みんな来て来て!

2013/11/2(土)幕張メッセ チーム・キープレフトブース 15:30-16:00

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冒頭の写真はオーストリア、ザンクトアントン。毎度ながら本文とは関係なし。


2013年10月7日月曜日

ニッポンよ、これが自転車インフラの世界標準だ(Vol. 3 鉄道編)

ヨーロッパの自転車インフラ紹介シリーズ第三回、今回は鉄道編をお送りします。

まず最初にお断り。タイトルには「世界標準」と銘打ってはおりますが、自転車レーン小規模分散型駐輪場とは異なり、今回紹介する事例を日本の都市部でそのまま導入することは得策ではないと思っています。

ただ、自転車と他の公共交通機関の組合せはこれからの日本においても重要なテーマですので、日本なりのアレンジを考える上でのヒントとして読んでいただければ幸いです。

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まずはインスブルック駅構内の写真です。
ホームにつながるコンコースに、自転車を引く男女の姿が。


日本では鉄道に自転車を持ち込む場合、原則として分解するか折りたたむかした上で袋に入れなければなりませんが、ヨーロッパでは自転車を「そのまま」持ち込むことが可能です(もちろん路線や車両などによりケースバイケースですが)。

乗客は駅まで自転車に乗り付けて、そのまま自転車を引いて、ホームまで上がってきます。


では自転車を車両にどう載せるのか?

オーストリアのインスブルックから南ドイツに行くときに乗った地域快速列車Regional Express(通称REX)の車内です。
車両の半分ほどの座席が折りたたみ式になっていて、自転車とベビーカー用のスペースとして割り当てられています。


座席には固定用ベルトがついていて、自転車やベビーカーが転がっていかないようつないでおくことができます。


もうひとつ、こちらはインスブルックと北イタリア間で乗った都市間特急Euro City(通称EC)。各車両の前端と後端に電話ボックスほどのスペースと引掛けフックがあり、自転車を1台ずつ縦置きにできる他、ベビーカーやスーツケースの置き場として利用されています。


もう一枚、こちらは鉄道ではないですが、ハルシュタットという湖畔の村から対岸の鉄道駅に行くための渡し船の乗船シーンです。
自転車を引いたまま渡し船に乗って、降りて、自転車を引いたまま電車に乗るわけです。


いやー、いいですねー。

・・・と言いつつ、自転車を引いて駅の構内を移動することも、車両に自転車を折りたたまずに持ち込むことも、冒頭に書いたとおり「日本の大都市では、特に東京では厳しいなー」と僕は思いました。

千葉外房のいすみ鉄道など地方路線を中心に「サイクルトレイン」と銘打って自転車をそのまま持ち込める列車はあり、可能な限り増えてほしいとは思いますが、大都市では得策ではないかな、と。

世界の鉄道駅の乗降客数ランキングのトップテンを日本の駅が独占しているという説もあるとおり、東京駅や新宿駅など日本の大都市の主要駅の構内と車内の混雑ぶりは、ヨーロッパ諸都市とは彼我の差がありますからね。

ということで僕は、とりあえず日本の鉄道における自転車の扱いは今のままでよいと思います。都市部の駅構内および車内への持ち込みは、原則として分解するか折りたたむかすると。

ただ、その上で、日本人および日本の鉄道会社は「列車に何かを持ち込むこと」に関して、あまりにも不寛容に過ぎると思います。
自転車に限らず、最近議論になっているベビーカー然り、車椅子然り、ペット然り(ヨーロッパでは電車でもバスでもベビーカーはそのまま乗ってくることがほとんどですし、犬もケージなどに入れずそのまま電車に乗ってきます)。

まずハード的な問題として、そもそも列車に「何かを持ち込むスペース」が少なすぎるのではないでしょうか。
僕が知るかぎり、荷物置きスペースが十分に確保されているのはスカイライナーや成田エクスプレスなど空港に乗り入れる路線くらいで、例えば山手線は車椅子スペースが申し訳程度に前後二車両にあるだけだし、天下の新幹線も自転車どころかスーツケースひとつ置くにも苦労しますよね。

そこで、主要路線にはあまねく上の三枚目の写真のような荷物優先車両(または荷物専用車両)か、五枚目の写真のように各車両に荷物用スペースを設けるかしてはどうでしょうか。 以前山手線にあったような全席折りたたみシート車両を、ベビーカー&荷物優先車両として復活させるとか。

あとはハード以上に重要なのが、やはり「空気」ですよねえ。。。
「通勤ラッシュ時にはベビーカー載せるな」のような意見が一定割合で根強くあるようですが、僕はもうちょっと寛容でもいいんじゃないの?と思います。
それに、ベビーカーのママに文句言ったり規制したりするより、時間差通勤とか在宅勤務とか、それこそ自転車通勤とか、ラッシュを緩和する議論に頭を使った方が、ずっと本質的かつ建設的だと思いませんか?

自転車の持ち込みも含め、ヨーロッパの公共交通機関におけるこの種の「寛容さ」というのは、自転車乗りの立場と関係なく、見習うべき点が多であると思います。

あ、日本の鉄道の定時運行は間違いなく世界一で、イタリアなんかには爪の垢を煎じて飲んでいただきたいですw

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irukaは折りたたんだ状態で補助輪などなしで転がせる機能と、新幹線などの座席で両足の間に置ける折りたたみ形状(窮屈ですが)を実現すべく進めております。

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冒頭の写真は北イタリア、ブレッサノーネの小川。


2013年9月25日水曜日

ニッポンよ、これが自転車インフラの世界標準だ(Vol. 2 駐輪場編〜後編)

ヨーロッパの自転車インフラ事情紹介シリーズ駐輪場編、後編です。

前回は、議論の前提として「経由地の駐輪場(そこに自転車を置いて鉄道など別の交通機関で別の場所に行くための駐輪場)として大規模集中型も必要だけど、目的地の駐輪場(そこに自転車を置いて近くで用を足すための駐輪場)として小規模分散型もあると便利」、という話を書きました。

というわけで今回は、先日の旅行で撮ってきた、ヨーロッパ3ヶ国8つの街の小規模分散型駐輪場をご覧いただきます。

1. オーストリア、インスブルック
これが基本形。数台〜10台程度の自転車をくくりつける金属バーが路上にあるだけ、というものです。


2. オーストリア、インスブルック
前の写真は金属バーを置いただけの可動バージョンですが、こちらはバーを埋め込んで固定したバージョンです。


3. オーストリア、ハル
同じく、埋め込み固定バージョン。


4. オーストリア、インスブルック
同じく埋め込み固定バージョンですが、歩行者天国にありました。そのせいかデザインもおしゃれ。


5. オーストリア、ザルツブルク
斜め置きにすることで、車道上でも幅をとらないように工夫しています。


6. ドイツ、ガルミッシュ・パルテンキルヘン
歩道上でも斜め置きにすることで歩行空間と折り合いをつけています。


7. イタリア、ブレッサノーネ
少し大きめのバージョンです。


8. イタリア、ブレッサノーネ


9. オーストリア、ザンクトアントン
企業広告つきです。どういうビジネスモデルで成り立っているのか非常に興味があります。どなたかご存じありませんか?


10. ドイツ、ミッテンヴァルト
同じく、企業広告つき。


11. オーストリア、ハルシュタット
今回見た中で最小です。わずか3台分。う〜ん、小規模分散。


12. オーストリア、パッチャーコーフェル
形は普通ですが、ここはなんと標高2000メートルの山頂なのです。マウンテンバイカー用に置いてあるんですね。ちなみに広告主のZipferというのはオーストリアのビールメーカーです。


13. オーストリア、インスブルック
ちょっと変わり種、街路樹を活用したバージョンです。


いかがですか?
おそらくほとんどの方が、これは良い、日本でもあればよいのに、と思うのではないでしょうか。

と同時に、こんな疑問を持たれると思います。

「日本でも作るとしたら、スペースはどうするの?」

はい、スペースはここに作りましょう。


歩道上の植栽を、駐輪場に一部転換するのです

以前も同じことを書きましたが、日本の歩道には低灌木の植栽が非常に多いです。
元々は街の緑化が目的で始まったのだと思いますが、その多くが手入れも管理も行き届いておらず、景観の点でもスペース活用の点でも逆効果になっているところが目につきます。

246沿い。お店の看板立てと化しています。手前の駐輪禁止サインがなんとも皮肉です。


表参道沿い。ゴミ回収場を兼ねているためか、いつもゴミが散乱しています。


商業エリアの主要道路沿い数百メートルおきに植栽の一部を舗装しなおして、上で見たような金属バーを置く。
この形態であれば、行政が意思決定さえすれば、東京都心に数千〜1万台規模の駐輪スペースを一気呵成に作ることができます。
コスト面のメリットも大きいでしょう。おそらく1ヶ所あたり数万円単位、1台あたり単価は1万円を切ることが可能ではないでしょうか(深く検証はしていませんが)。

早い、安い、そして便利な小規模分散型駐輪場。
オリンピックが来る前に、ニッポンでも、トーキョーでも、やりませんか。やりましょうよ!

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冒頭の写真はオーストリアの湖畔の村、ハルシュタット。鉄道の駅から渡し船で対岸の街に渡ります。なかなかの風情。


2013年9月19日木曜日

ニッポンよ、これが自転車インフラの世界標準だ(Vol. 2 駐輪場編〜前編)

前回に続き、旅行で訪れたヨーロッパの自転車インフラ事情を紹介します。今日は駐輪場について。

と言いたいところですが、今日はまず前提を整理しておきたいと思います。

駐輪場に関する議論には、大きく分けて以下の2つの論点があると思っています。

1. 経由地の駐輪場
2. 目的地の駐輪場

前者は「自転車をそこに置いて、別の交通機関に乗り換えて別の場所に行くための駐輪場」のことです。
「家から最寄り駅まで自転車で行って自転車を置き、電車に乗り換えて通勤/通学する」が代表的な利用例ですね。

後者は「自転車をそこに置いて、その近くで用を足すための駐輪場」のことです。
「買い物をする/食事をする/お茶を飲む/出勤する」などがそうです(無数にあります)。

前者と後者では、駐輪場に求められるスペックは大きく異なります。

前者「経由地の駐輪場」は、多くの人がほぼ同じ時間・同じ場所に集まって来ますから、収容台数が大きいこと(あぶれてしまったら別の遠い駐輪場を探すか、撤去覚悟で放置するしかありません)、乗り換えの駅から近いことが最重要です。

一方、後者「目的地の駐輪場」は、人によって目的地が異なる上に、同じ人でもいくつかの目的地を移動することがありますから(複数の店を買い物して回るなど)、同じエリア内に一定間隔で複数の駐輪場がある方が使い勝手は優れています。そのかわりひとつひとつの規模は小さくて構いません。

つまり、経由地の駐輪場には「大規模集中型」が、目的地の駐輪場には「小規模分散型」が望ましいということです。
商業エリアのある一定規模以上の街には、両方ある方が便利ですよね。

しかし、一般的に日本では、駐輪場に関する議論も対策も、前者「経由地の駐輪場」をどうするかということに偏っているように思えます。

例えば、表参道(イルカオフィスの最寄駅です)。
先日、駅出口から100メートルほどの場所に、300台収容の区営駐輪場ができました。



本当に、もう本当にすばらしい。港区ブラボー。
あんな一等地によくぞこんな立派な駐輪場を、です。港区の英断ですね。
駅まで1分もかからず、収容台数もかなりのもの。
典型的な「大規模集中型」であり、「経由地の駐輪場」としては完璧です。

ただ、(苦言ではなく事実として)駅には行かず表参道で買い物を楽しもうとすると、例えば表参道ヒルズまでは5分ほど、東急プラザには10分弱歩く必要があります。(*)
決して悪くはないのですが、表参道という東京を代表するショッピングエリアの「目的地の駐輪場」としては、もうひと声という感じなのです。

そこで、もし表参道の通り沿い100メートルおきくらいに、「小規模分散型駐輪場」があったらどうでしょう。

・・・と言っても、ピンとこない方々がほとんどだと思います。日本ではほとんど見かけませんから。
というわけで次回は、先日のヨーロッパ旅行で撮影してきた、墺独伊3ヶ国8つの街の、小規模分散型駐輪場の写真をご覧いただきます。

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*表参道ヒルズには来客用駐輪場がありますが、東急プラザにはありません。

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冒頭の写真はインスブルック、朝焼けのイン川。