2012年8月17日金曜日

オリンピックで街は変わる(ただし東京を除く)


オリンピックが終わりましたね。

このエントリとオリンピックの関係については後で書くとして、まずファクトを提示します。

各都市の自転車レーン総延長距離:
ロンドン 900km
ニューヨーク 675km
パリ 500km
東京 11km


え?見間違えたかな?と思った人もいるかもしれませんね。もう一回どうぞ。

各都市の自転車レーン総延長距離:
ロンドン 900km
ニューヨーク 675km
パリ 500km
東京 11km


僕は何度かこのブログで、自転車活用に関して東京がいかに遅れているかを書いてきましたが、改めて数字にして並べるてみると愕然とします。
(過去エントリ:自転車レーンを作るのだ 丸の内に駐輪場を作るのだ

なぜこれほどまでに違うのでしょうか。
東京には、自転車レーンを作れない特殊な事情でもあるのでしょうか。

ありません。

違うのは、行政のやる気だけです。

他の三都市とも、かつては、といってもつい最近まで「自転車に優しくない街」として有名でした。
ところが、ロンドンはボリス・ジョンソン市長が2008年に、ニューヨークはブルームバーグ市長が2001年に、パリはドラノエ市長が2001年に就任してから、劇的に変化しました。
パリなんて1995年の時点では自転車レーンの総延長はわずか8kmしかなかったのです。
ニューヨークとロンドンも、程度の差こそあれ似たような状況でした。

パリとロンドンは、自転車レーンの拡充のみならず、コミュニティサイクルと呼ばれるレンタル自転車ネットワークも導入しており、ニューヨークも計画中と聞いています。

行政が、特に首長がやる気を出せば、街は大きく変わるのです。

では、なぜこれらの都市は自転車インフラを強化しているのでしょうか。

自転車だけに注目すると、本質を見誤ります。
自転車活用促進は、単独の政策ではなく、より複合的・長期的な都市政策の一つでしかありません。

それは「クルマ社会からの移行」です。

ロンドンやニューヨークなど世界の大都市の多くは、長年クルマ優先の街づくりが進んだ結果、慢性的な渋滞、大気汚染、ヒートアイランド化、交通事故、景観破壊、駐車スペース不足などの問題に悩まされてきました。

より安全かつ環境負荷の低い都市へと変貌を果たすため、都心からクルマを減らすこと、そのために市民がクルマより自転車や電車・バスなどの公共交通機関をより利用したくなるように政策を整備することが、各都市共通の基本方針なのです。

そこで、いずれの都市も、ある程度クルマの利便性をあえて損なう政策(ペナルティ)と、クルマ以外の移動手段の利便性を向上させる政策(インセンティブ)を組み合わせて導入しています。

ロンドンは、都心20平方キロ内でクルマに乗るには課徴金が必要です。
ニューヨークは、タイムズスクエア前などいくつかの目抜き通りを歩行者天国にしました。
パリは、市内の道路の2割近くを、制限速度を30km以下とする「ゾーン30」に指定しています。

自転車活用促進は、複合的な都市交通政策のうちの一つであることがよくわかると思います。

さて、なぜ冒頭でオリンピック云々と書いたのか。

東京都は、2020年オリンピック開催都市に立候補しています。

ロンドンオリンピック期間中、現地に視察に赴いた猪瀬直樹・東京都副知事が「ぜひ東京でこの感動を」と訴えるツイートを繰り返し、僕のタイムライン上でも賛同する声が大いに盛り上がっていました。

東京都はオリンピック招致にあたって次のように述べています。

「東京の都市戦略として策定した「10年後の東京」計画に基づき、超高齢化社会への対応、子供たちの健全な育成、さらには交通渋滞の解消など、より安心・安全で快適なまちづくりに取り組んでいます。オリンピック・パラリンピックはこうした取り組みを加速させ、東京をさらに暮らしやすい街へと生まれ変わらせます」(2016年オリンピック招致サイトFAQより)。

「10年後の東京」と銘打った都市戦略があり、それをオリンピックによって加速させるというのです。

すばらしい。

リオデジャネイロも、オリンピックを機に自転車レーンを300kmまで拡充するそうです。
ロンドンも、オリンピックまでに渋滞を減らそうという思いが自転車レーン設置を加速させたと聞きます。
渋滞と大気汚染が世界最悪と言われる北京は、オリンピックをきっかけに導入した自動車ナンバー別走行規制を、2013年まで継続することを決めました。

オリンピックは、街を変えるチャンスなのです。

僕は東京オリンピックそのものには特に乗り気ではありませんでしたが、これを機に東京が美しくサスティナブルな、自転車フレンドリーな街に生まれ変わるなら、全力で開催を支持します。

では、その東京都の都市戦略「10年後の東京」を見てみましょう。わくわく。

こちらをどうぞ!

・・・。

時間がある方はご自分の目で確かめてください。

自転車のジの字もありません(*)。

別に全て外国のマネをすべきとは思いませんが、ロンドン、ニューヨーク、パリという世界三大都市が、安全と環境のために、都心からクルマを減らして自転車と公共交通機関の活用を促すべきという結論に至っているわけです。
自転車活用促進は、囲碁でいえば定石の政策であるといえるでしょう。

東京都はそんな定石はガン無視です。

まあ別に定石を用いなくても、それにかわるだけの効果的なプランがあるなら構いません。
ところが、交通に関しては環状道路を整備して渋滞を減らす環境に関しては緑化と再生エネルギー導入を進めてCO2を25%削減する、としかありません。

僕が自転車ファンであること、自転車ビジネスに携わっていることを抜きにしても、これはあまりにも、あまりにもお粗末です。

なんというか、まあ、賭けてもいいですが、これでは10年後の東京は何も変わらないでしょうね。

・・・というわけで僕は現在の東京都の都市政策とオリンピック招致計画には、大いに失望しています。

が、絶望はしていません。
リーダーシップが変われば街は大きく変わることが、ロンドン、ニューヨーク、パリを見てわかっていますから。

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*一応こちらの46ページに「自転車道を整備」との文言がありますが、見ていただければわかるとおり完全なやっつけ記述ですので無視します。

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冒頭の写真はヴェネツィアの裏路地。ていうか裏水路。


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