2011年5月31日火曜日

言い訳Maybe


iruka試作第三弾のデータ作成フェーズが続いています。
完了次第また中国の工場で製作にとりかかりますが、よく「なんでirukaって開発にそんな時間かかってるの」と聞かれるので、FAQ的に回答を書いておこうと思います。
はい、言い訳ですw

一言で言うと、トレードオフの関係にある走行性能と携行性能を、高いレベルで両立させるには課題が予想以上に多くて大変だった、ということです。

例えば、車輪径は大きい方が一般的にスピードは出やすいですが、車輪を折りたたむことはできませんから逆に折りたたみサイズは大きくなってしまいます。
また、ホイールベース(前後の車軸間の距離)は長い方が安定性は高まりますが、これも長くとればとるほど小さく折りたたむのは難しくなります。
ダホンブロンプトンのようにトップチューブ(サドルとハンドルの間のフレーム)を二つに折ることでホイールベースと折りたたみサイズの両立を図る自転車も多いですが、フレーム上に可動部を作ることで剛性が弱まり、ペダルロス(ペダルを踏んだ力がダイレクトに駆動系に伝わらない)が大きくなり、きしみも発生して走行性能を大きく損なってしまいます。
中にはBD-1のようにトップチューブを折らないタイプも存在しますが、総じて折りたたみサイズは大きくなりがち。

irukaは18インチホイールで100cm以上のホイールベースを確保しながら、トップチューブを折らずに折りたたみサイズを横75cm×縦45cm(=車輪径)に収める方法を考案しました。

考案しました、ってあっさり書いてますけど、ここに至るまでが大変だったわけですよw

さらにその上で、折りたたみ自転車というのは走るときと持ち運ぶときという2つの顔があるので、極力1つの機構に2つ以上の役割を持たせ、逆に役割が1つしかない機構は省いてシンプルな製品にしたかった。

例を挙げると、折りたたんだ状態で補助輪なしに転がして運べるようにする機構。
転がし用の補助輪をつければ簡単だし他にもそういう自転車はあるけど、補助輪て走るときは無用なのでエレガントではない。
自転車にはそもそも2つ車輪がついてるので、これを折りたたみ時にも転がして運ぶのに使えばいいじゃないかと。1つの機構で役割が2つになる。エレガント。
そのかわり、折りたたんだときに車輪がどこにも触れないように設計しなければならず、結構な試行錯誤が必要になるわけです。
他にはキックキックスタンドなしで駐輪できる機構(キックスタンドって駐輪するとき以外は走るときも折りたたんだときも無用で、エレガントではない)とか、ハンドルの折りたたみ部が高さ調節を兼ねている機構とか。
このあたりはまだ継続検討中の点もいくつか。

いずれも3Dデータの検討だけではダメで、試作をもっと早く回せればだいぶ短縮できたと思うんだけど、工場探しや全体の開発プロセスについては僕の能力不足・経験不足から随分遠回りしてしまいましたね。
このあたりはまた別の機会に書きます。

まあでも、発売まで11年かかったというブロンプトンや、BD-1、ダホンといった先達がいなければベンチマークもなくもーっと時間がかかっていたでしょうし、そもそもirukaを始めることもなかった。
irukaが完成したら先達各社を訪問してリスペクトと感謝の言葉を伝える旅をしたいです。マジで。

悪く言えばゆっくり、良く言えばじっくり、iruka前進しております。

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写真はアイスランドの首都レイキャビク。手前の雪原ぽく見えるのは公園の池が凍ってるだけ。


2011年5月16日月曜日

モノづくりとビジョン



シロガネーゼ、イケダンなど数々のバズワードを生み出し「女性の社会参加とか雇用機会均等とか言っても、結局は可処分所得高い男をつかまえた女性が勝ち、それ以外は全員負け」という身も蓋もない価値観がたまらなくアレな女性誌VERYと、日本自転車業界の雄・ブリヂストンがコラボして「パパもママも乗りたくなるハンサムバイク」を開発したというので紹介します。

はい、こちら。
HYDEE.Bというそうです。



・・・。

意味不明にMTB仕様のタイヤをはいてたりハンドルの形が多少変わってたりはしますが、ただのママチャリですね。
自分が自転車メーカーを名乗りながら未だ製品を発売できていないことはキレイに棚に上げて率直に言わせてもらうと、結局こんなもんなんですよね。
もちろんこの自転車を気に入るという人もいると思いますが、少なくとも日本のママチャリ利用層のライフスタイルを変えようなんて気概など一切感じられません。

ママチャリのライフスタイルとは何か、というと・・・

ママチャリというのは、読んで字の如く、日本のママのために独自の進化を遂げた自転車なんですね。
子供や買い物袋など重い荷物を積んで、段差もある歩道を、事故を起こさないようゆっくり走るために、ぶっといフレームにぶっといタイヤを履いて、低速安定を重視したギア比にしているわけです。
そのため通常20kg前後、電動アシストがつくと30kg前後というちょっとおそるべき重量になり(上記のHYDEE.Bも29.8kg)、ペダル一回転で進む距離(GD値)も4〜6mとスピードが出ない仕様になっています。

そんな自転車では遠くまで走れないのでは?
はい、そのとおりです。
要はママチャリとは、お母さんが自宅の近く(幼稚園・保育園→近所の公園→近所のスーパーなど)を移動するのに最適化された自転車なのです。

うがった見方ですが、VERYが何ら変哲のないママチャリを出してしまうのも、結局のところ「女性は自宅周辺だけを生活範囲にして、家を守っていればよい」という古い価値観のままだという証拠かもしれません。

それではかわって、パパママのライフスタイルを変える気概を感じる自転車を二つ紹介します。

まずはtrioBike
フロント部分を脱着することで、ベビーカー付き三輪自転車が普通の二輪自転車に変身する、という製品です。



「毎朝三輪自転車でゆっくり子供と会話を楽しみながら保育園まで送り、着いたらベビーカーを保育園に置いて、二輪自転車をとばして職場に行く→仕事を終えたら二輪自転車で保育園に迎えに行き、ベビーカーを装着して三輪自転車で帰宅する」というライフスタイルを提唱しているわけです。





続いてtaga bike
ベビーカー付き三輪自転車(画像左)から、後ろの自転車部分をくるっと上から一回転させることで普通のベビーカー(画像右)になってしまいます。



子連れ&ベビーカーを持って遠くに外出するには、電車やバスでは特に女性は乗り降りなどに大変苦労しますし(以前バス停でバスが来たのに乗ろうとしない子連れ&ベビーカーの女性がおり、理由を聞いたところノーステップバスではなく持って上がれないから次を待つとのことでした。もちろん手伝ってそのバスに一緒に乗りましたが)、自家用車でも積み降ろしや駐車場探しが大変です。
このtaga bikeであれば、例えば「家の近くには小さな公園しかないので、tagaで遠くの大きな公園まで行き、公園に着いたらベビーカーに切り替えて散歩を楽しむ」なんていうスタイルができそうです。
下の動画の男性は、子連れでパリ観光を楽しんでいます。




trioBikeは毎朝晩ベビーカーの脱着が面倒そうだ、とか、taga bikeはベビーカーが大きすぎて不便だ、など色々ツッコミもあると思いますし、事実日本で使うにはアレンジが必要だと思います。
ただ、少なくとも、作り手が「こんなライフスタイルを実現したい、人々の生活を変えたい」という明確なビジョンの元にモノづくりをしていると感じませんか?

僕はそんな作り手が大好きで、irukaもそのつもりで進めています。

じゃirukaはどうなってんだと。
はい、次回そろそろアップデートします。すみませんw

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冒頭の写真はアイスランド、ボルガルネースというフィヨルド沿いの町にて。