2011年7月22日金曜日

誰から電気を買いますか?


前回より続く)僕の家では太陽光発電に200万円投資して、最初の半年間の余剰電力買取で約8万円の利益を得ました。
このまま元をとるには12年半かかりますが、現在審議中の再生エネルギー促進法案の柱である「固定価格全量買取制度」になったらどうなるか、はたしてそれは良いことなのか、というのが今回の話です。

発電能力編」で書いたように、うちの1月から6月の総発電量は計2,700kWhでした。
7月から12月も同じペースとすると1年で5,400kWh、これに法案の買取単価である42円を乗じると、年間収入は23万円になります。

わお!1年で23万Yen!これなら9年弱で元がとれるし、もし太陽光パネルが20年もったら(法案では買取単価は10年保証ですが、もし20年変わらなかったら)250万円も利益が出ます!すげーー!菅首相がんばれーー!

・・・とは思いません。

結局のところ買取制度というのは、余剰だろうと全量だろうと「屋根とお金(太陽光パネルの初期投資)を持っていない人から持っている人への、有無を言わせぬ所得の移転」です。
補助金とか助成金というのはあまねくそういうものですが、なんかこう、政策としてイマイチだと思いませんか?*

そこで考えたいのが、電力完全自由化です。

実は今でも、地域独占の電力会社(代表は東電)以外にもPPSと呼ばれる発電事業者(製鉄会社とか商社とか)がいて、大口需要家(工場など)はどこの電気を買うか選べるのですが、小口需要家(つまり家庭)には選択権はありません。
これを、家庭でも自由にどの発電会社から電気を買うか選べるようにするのが、電力「完全」自由化なのです。

ソフトバンクが発電事業に参入しようとしていますが、買取制度の元では、ソフトバンクは東電など地域独占の電力会社に電気を売るだけで、我々消費者は今までどおり東電などから電気を買います。
一方、電力完全自由化の状況では、ソフトバンクも東電もその他の会社も同列の発電会社として競争し、消費者がどこから電気を買うか選ぶのです。
(その場合、発電会社ごとに送電線を作るのは非効率かつ非現実的ですから、東電など既存の電力会社は発電機能と送電機能に分かれ、各発電会社は送電会社の電力網を借りて送電することになります。これが「発送電の分離」です)

地域独占+買取制度は発電する企業/個人からするとほぼノーリスクですから、短期的には参入者が多く効果が出やすいでしょう。
現にソフトバンクも「全量買取を条件に」発電事業を始めると表明しています。
しかしそれでも、完全自由化には以下のメリットがあります。

国民全員が能動的に関与できる
地域独占+買取制度の元では、自分は自然エネルギー推進に貢献したい、と思っても、屋根(または土地)とお金がなければ能動的には何もできません。
特に東京など大都市圏には、エコ意識が高く太陽光パネルを買うくらいの余裕もあるのに、マンション住まいなので何もできない、せいぜいブログやTwitterで意見を書くくらい、という人が大勢います。
家で太陽光発電をやっていれば、発電モニターを1-2時間眺めるだけで太陽光の効用も限界もすぐ理解できるのですが、やっていないとなかなか実感としてわからないため、中には非常に観念的・精神論的な、やればできる的な話を繰り広げる人も少なくなく、不毛な議論の元にもなっています(感じ悪くてすみませんが、僕もわかりませんでしたから)。
完全自由化の元であれば「どの発電会社から電気を買うか選ぶ」ことによって、日本人全員が、能動的に電力政策に関わることができます。

強く健全な発電会社をつくる
固定価格全量買取制度も永遠ではなく、太陽光であれば10年間、風力などその他は15〜20年が買取保証期間という案になっています。
つまり10〜20年間はソフトバンクなど発電会社は一切、競争も営業活動もなしに売上が保証されるわけです。
発電会社には、買取保証期間が終わっても潰れたり撤退したりせずに電力を供給し続けてもらわないと、意味がないどころか国にとっては損失でしかありませんが、10〜20年も競争がなく補助金漬けだった企業が、補助金がなくなった後も存続できるでしょうか。
いいえ。健全な競争だけが健全な会社をつくる、と僕は思います。

電気代が最適化される
全量買取では、買取原資が電気代に上乗せして集められますから、必ず電気代の値上げを伴います。
一般家庭は数百円の値上がりで済むと言われていますが、製造業など産業部門にはわずかな値上がりでも大打撃ですし、何より誰も価格をコントロールできないのは大問題です(現にスペインは全量買取のコストコントロールに失敗し、財政破綻寸前に陥りました)。
自由競争の元であれば、電気代は自ずと需給がバランスした価格に収束します。
(ただし自由化すれば価格が必ず下がるということではありません。米国などでも、自由化で逆に価格が上がった例もあるようです)

もちろん電力完全自由化にも問題はあります。
大きく二つ上げると、一つは供給責任が不明確になることで停電リスクが高まる点(カリフォルニア電力危機が記憶に新しいですね)、一つは自然エネルギーの比率が高まるかわからない点でしょう。
後者に関しては、自然エネルギー発電会社にはある程度の補助・助成は必要だと思います(税制優遇、送電会社にRPSを課す、自然エネルギー電力の支払いに使えるエコバウチャーを家庭に配る、など)。

ただいずれにせよ、「政府主導で」「補助金ジャブジャブの」「一部の人しか能動的に関与できない」全量買取制度より、「民間主導で」「自由競争の」「国民全員が能動的に関与できる」完全自由化を軸に議論を進める方が健全だし、自由化された電力市場に敢然とチャレンジするイケてるベンチャー企業がいたら、電力も買いたいし投資もしてみたい、と僕は思うんですけどね。

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*補足
日本では自然エネルギー≒太陽光ですが、買取制度を導入して自然エネルギー先進国とされているドイツとスペインでも、太陽光の割合はそれぞれ2%, 3%にとどまっているのが現実です。
理由は太陽光の稼働率が低いためです。例えば、ピーク時電力の20%に当たる発電容量を持っていても、稼働率が10%であれば総消費電力の2%にしかなりません。
逆に着実に伸びているのは風力ですから、全量買取でいくのであれば家庭の太陽光など冷遇して、風力や地熱(日本は地熱資源が豊富と言われる)が一気に立ち上がるような制度設計にすべきです。

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写真は木場の運河。


2011年7月19日火曜日

太陽光6ヶ月レビュー〜収支編


太陽光発電を始めて6ヶ月、先日の「発電能力編」に続いて今日は「収支編」のレビューです。

僕の自宅の屋根には総発電能力3.7kWの太陽光パネルが載っかっています。
ユニット代と工事費でほぼジャスト300万円かかりましたが、区と都の補助金が約100万円ありますので、実質の負担は200万円でした(都の補助金申請がこれがまた嫌がらせかっていうくらい面倒で、実はまだもらえていないけど)。
この200万円の出費に対して、元がとれそうかどうか、という話です。

うちは夫婦とも働いているので、平日昼間は太陽光がせっせと発電してくれていても、電気をほとんど消費しません。冷蔵庫が動いているくらいです。
例えば、太陽光が2.3kW発電しているのに家の中では0.3kWしか消費していないという状況が1時間続いたとすると、2.0kWhの電力が「余剰」になります。

この余剰電力を、「1kWhあたり48円で」東京電力が買い取ってくれます。
太陽光パネルのある家には、普通の電気メーターとは別に「売電用」のメーターがついていて、1ヶ月間の余剰電力の合計×48円が翌月に振り込まれるのです。
これが「余剰電力買取制度」です。

さあ、実績を見てみましょう。

売電kWh売電金額
1月279kWh13,392円
2月228kWh10,944円
3月278kWh13,536円
4月369kWh17,712円
5月289kWh13,872円
6月182kWh8,736円
1,625kWh78,192円


半年で8万円弱ですから、1年で16万円とすると、12年半で元が取れる計算です。
僕個人としては「思ったより上出来」というところでしょうか。
太陽光パネルの寿命は10年〜20年くらいと言われていますので、もしパネルが20年もったら100万円以上の利益が出ますからねー。

ちなみに、5月の売電(余った電気を売った)の明細はこんな感じです。
右下に「買取単価48円00銭」と書いてあります。



こちらは買電(電気を使った)の明細。
329kWh使って3,272円ですから、割り戻すとkWhあたり9.9円です。



東電が10円前後で売っている電力を、48円で買わせているわけですから、なんだか申し訳ありませんねw

申し訳ない、というのは東電に対してではありません。太陽光パネルを持っていない方々に対してです。
東電をはじめ日本の電力会社は、余剰電力買取の原資を、「太陽光促進付加金」として全ての世帯から電気料金に上乗せして集めているからです(東電は消費電力1kWhあたり0.03円、他社も計算式が異なるが大体それくらい)。

もう一度5月の明細を見てみましょう。「太陽光促進付加金9円(消費電力329kWh×0.03円=9.9円切り捨て)」という記載があります。
負担は全世帯なので、うちも5月は9円払ったうえで、13,872円を受け取っているわけです。



こうして、全国の4900万世帯と600万事業所から広く薄ーくお金が集められ、太陽光を設置している40万世帯に振り分けられているわけです。
これが良いか悪いかではなく、こういう仕組みだということです。

さて、僕は12年半で元がとれそうで、うまくすれば利益も出る可能性がありますが、これは「良い方」でしょう。
うちは共働きで昼間の消費電力が小さいのと、蓄熱暖房という深夜電力を使う暖房器具を入れているので、余剰電力が生まれやすい家なのです。
一般的にはもう少し収支見通しは厳しく、かつ今年から買取単価も下がったこともあり(48円→42円)、もう太陽光の普及は頭打ちでしょう。

そこで出てきたのが、菅首相&孫社長肝いりの、通称・再生再生エネルギー促進法案こと、固定価格全量買取制度(フィードインタリフ、FIT)です。

全量、すなわち「余った電力だけ」ではなく「再生可能エネルギーで発電した分を全て」電力会社に買い取らせる、という法案です。
再生可能エネルギーといっても太陽光から風力や地熱などいろいろありますが、買取単価は太陽光が42円/kWh、それ以外が15~20円/kWhと、太陽光が著しく高い設定になっています。

この法案が通った場合、僕の家の収支はどうなるでしょうか。

長くなるので続きます。

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冒頭の写真は自宅への来客にいただいたひまわり。

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追記)48円の買取単価は10年間しか保証されていませんので、もし11年目以降に単価が大きく変動した場合は収支も変わります。


2011年7月7日木曜日

父の起業(ただし未遂)


もう昨年のことですが、Twitterのやりとりで思い出したので書いておこうと思います。
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父は仕事を引退してから、ふぬけていた。

父よりかなり前に看護婦の仕事を定年でやめていた母は、ボランティアを始めたり、趣味のちぎり絵や手芸をやったりしてそれなりに楽しそうに過ごしていたが、父はあまり出歩かず家でテレビを見ているばかりだった。
健康にも気を遣わず、時折「何のために生まれたかわからない」などと言うこともあったという。

父は元国鉄職員だ。
元、というのは未成年のうちから30年以上働いた国鉄を民営化の際に退職し、以後は70過ぎまでビル管理員などをやっていた。
父の一家は戦中に移住先の満州で父親(僕の祖父)を病気で亡くし、ソ連兵に追われて命からがら日本に帰ってきた。
大黒柱をなくした一家は貧しく、父は家計を支えるため高校を中退して国鉄に就職したのだった。

父は僕が公務員になることを希望していた。
あの国鉄でさえああなってしまったのだから、安心できるのは県庁か市役所くらいしかない、というわけだ。
それがよりによって起業など、ということで、僕はオプトに入る前に一時期勘当状態にあった。
社長の鉢嶺が僕に内緒でとりなす手紙を父に送ってくれたりして勘当は解けたが、とにかくまあ、そういう性格だ。

仕事人間、ではない。
仕事人間ではないが、働いていることは彼の重要なアイデンティティだったのだ。

さて、と考えた。

起業させよう、と思った。

なぜ起業か。
もちろん趣味やボランティアでも良いのだが、父は起業が一番熱中できると思ったのだ。
なぜなら、僕がそうだったから。
(まあ僕は趣味にも打ち込んでますけどねw)

ともあれ僕が考えたのは、ランチタイムだけ営業する小さな定食屋か移動店舗だ。
父は僕と同様料理が好きで「余裕があれば飲食店をやってみたかった」と言っていたことがあった。
メニューを思い切って1〜2種類に絞って売り切れたら営業終了という形にすれば経営はシンプルだし、うまくすれば繁盛すると思った。
僕自身も実は飲食店経営に興味があったということもある。

男の親子というのは、どうも話すだけだとついお互いぞんざいな口調になって無用に衝突することも多い。
僕は簡単にパワーポイントに提案をまとめ、出張の帰りに静岡の実家に寄って話を持ちかけてみた。

無理だ、というのが父の反応だった。
体力的にもきついし、不動産屋を回ったり免許をとったり、やることが多すぎて自信がない、と言う。

つまり「嫌だ」ではなく「興味はあるが自信がない」ということだ。
僕は話を続けた。資金は僕が出す、何も何千万もかけて勝負しろと言ってるのではなく数百万で始めて、資金が尽きたらすっぱりやめればよい、元気なうちにやってみたらきっと楽しい。

二週間後に返事があった。
ありがたい話だが、やはり起業はしないという。
60代だったら一も二もなくやっていたと思うが、もう70代も半ばではさすがに無理がきかない、気楽にやれと言っても自分の性格上店を潰さないよう根を詰めてしまうだろうから母にも迷惑をかけてしまう、云々。

二週間の間に、父なりにいろいろ調査したようだ。
必要な届出や資格取得のため方法、静岡の不動産の賃料相場、街に出かけて実際の店を偵察して回ったりもしたらしい。
手書きの損益シミュレーションは、元上場企業CFOの僕wwwから見てもなかなか緻密でよくできていた。

普通に考えたら突拍子もないともいえる提案に拒絶反応を起こすことなく、先入観なしにリサーチを進めて結論を出したことに、やるじゃん、と思った。

こうして父の起業は未遂に終わったが、以降、父は格段に元気になった。
ウォーキングを始めて日焼けし、かなり体重を落として健康的になった。今がこれまでで一番体調が良いらしい。

やはり起業というのは、小規模でも、例え未遂に終わったとしても、人を楽しく、エナジェティックにさせるのだ。

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用意していた起業資金は、両親の旅行資金としてプレゼントした。
二年続けて夫婦で北海道に行ったり、親戚を温泉に招待したり、楽しく遣ってくれているようだ。

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写真は安曇野・有明神社。


太陽光6ヶ月レビュー〜発電能力編


自然エネルギーの話題がホットな折柄、昨年末に自宅を新築して太陽光発電を始めてから半年たちましたので、実数値を出してレビューしておきたいと思います。

まず6ヶ月間の延べ発電量。
下の写真では2796kWhとなっていますが、6ヶ月を10日ほど過ぎた時点で撮影しましたので、6ヶ月ジャストでは2700kWhくらいです。



これが多いか少ないか。

設備利用率、すなわち「最大発電能力に対してどれくらいのパフォーマンスだったか」を考えてみます。
うちの太陽光パネルの最大発電容量は3.7kWですので、設備利用率=発電実績2700kWh/最大発電能力16000kWh(3.7kWh×24時間×180日)=17% となります。
低いなあと感じる方も多いと思いますが、日本の太陽光の稼働率(発電した時間数/総時間数)が平均12%と言われていますから、大体符合する感じです。

では絶対的な発電量としてはどうか。
我が家の1月〜6月の総消費電力は約11000kWhでした(ちなみにオール電化です)。
入居当初は蓄熱暖房機の加減がよくわからず使い過ぎてしまったのと、3ヶ月ほど義母が一時的に同居していたので、もう少し少なく済んだはずと思います。本来は9000〜10000kWhくらいでしょうか。実際、冷暖房を使っていない5月6月は、月300kWh台でしたので。

総消費10000kWh前後に対して発電2700kWhですから、ざっくり我が家の総電力の30%にあたる電力を太陽光が発電したことになります。
うちは夏に冷房をほぼ一切使わない&夏は日照量が多いですから、通年では総電力の35〜40%相当を太陽光が発電することになりそうです。

キャパシティの17%しか使ってないのに総電力の4割近くも発電するの?すごくない?太陽光やばくない?自然エネルギー100%も夢じゃなくない?

・・・という気持もわかりますが、はっきり言って総電力の比率を見ても実用性の観点ではほとんど意味がありません。
電気は貯めることが(ほぼ)できないので、刻々と変動する電力需要に対して、常に安定した電力を供給できるかどうかが重要なのです。

実際うちは夫婦二人とも働いているため、平日はほぼ夜しか電気を使いませんが、当然ながら夜間の太陽光発電はゼロです。
もちろん昼間余った電力は東電が買い取ってくれて他のご家庭で使われるわけですが、以前も書いたとおり、時間帯と天候によって出力が大きく上下するため、「太陽光の発電がゼロになってもいつでも十分な電力を供給できるバックアップ電源」が必ずペアで存在しないと、単体だけでは成り立ちません(「いつでも十分な」を満たしていないので風力ではダメ。現状は現実的には原子力か火力しかない)。

逆に言えば、電気を貯める技術(蓄電技術)にブレイクスルーが起きれば、太陽光・風力などの自然エネルギーだけで少なくとも家庭用の消費電力くらいは賄えそうな感じはしますね(東京電力管内の電力需要は家庭用が65%で産業用が35%)。

ただし、さらに逆に言えば、今世界中に存在する全ての電池・バッテリー類をかき集めて充電しても世界の電力需要を10分しか賄えないと言われており(by ビル・ゲイツ)前途は多難、というか見通しさえ立っていないのもまた事実です。

ということで、太陽光発電ユーザーとして半年が過ぎた僕の感想&考えは:

「現時点では自然エネルギーだけに頼ることは無理だが、ポテンシャルはある。ただし自然エネ100%社会を実現するには蓄電技術の大きなブレイクスルーが必須であり、その目処は立っていない現在では、温暖化と大気汚染の進行を防ぐためにも『当面は』原子力の継続運用が必要である」

自分で言うのも何ですが、論理的ではないでしょうか。

自然エネルギーを推進するためには、推進派は反対派・懐疑派よりも、よりデータとファクトを重んじて、論理的・合理的である必要があると思います。
でなければ、社会全体を説得できませんし、正しい制度設計もできません。
が、今は逆に、自然エネルギー推進派というと、過度に情緒的な、中にはファナティックと言ってもよい人も少なくなく、無用な反感反発を生んでしまっているように思います。

まあ僕は僕で、データがないと何もできない男、という自覚はあるのですがw

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我が家の太陽光発電の経済的な収支についても別途書くつもりです。

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写真は安曇野にて。山吹。