2012年3月23日金曜日

ブータンを思い出す


昨晩、NHKでブータンの特集番組を放送していた。

先日国王が婚約者と共に来日して注目を集めたこともあるが、特に震災と原発事故以降、日本も経済成長よりも国民の幸福度を重んじるブータンの政策を見習うべしという声が、にわかに高まっているように思う。

僕も2009年にブータンを旅行し、すばらしい自然、仏教に根ざしたユニークな伝統文化、そして純朴で暖かな国民性に魅了され、その基盤となるGNH(国民総幸福量)を重視した国家運営を我々もおおいに学ぶべきとブログ(旅行記 1 2 3 4 5)に書いた。

今もその考えは変わらないが、昨晩のテレビ番組をはじめ、昨今の日本人がブータンを見る目は、どうも「隣の芝」が過ぎるように思えてならない。
そこで今日は、あえて、ブータンに関してあまり知られていないファクトを提示しておきたい。

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ブータンの人口は約70万人、一人あたりGDPは1978ドルである(2010年為替レートベース 日本の20分の1)。

国ごとの一人あたりGDPと平均寿命には強い相関があることが知られているが、ブータン人の平均寿命は66才であり、北朝鮮よりわずかだが短い(日本は83才)。

最大の産業は電力の輸出である。ヒマラヤの雪解け水を利用した水力発電で作った電力を、隣国インドに売ることでGDPの20%を稼ぎ出している。

売電に次ぐ主要産業は農業であり、国民の8割強が農業に従事している。工業が発達していないため国内の電力消費が少なく、ゆえに売電が可能であるともいえる。

近年、第三の産業の柱として観光業にも力を入れている。
日本に比べれば職業選択の自由がないに等しい(自由はあるが職種がない)ブータンにおいて、旅行ガイドやホテルマンは「イケてる仕事」として大人気だが、環境に悪影響を与えないよう政府が旅行者数を制限しているため、観光業への就職は極めて狭き門である。アマンがオープンした際には、80人の求人に実に3000人の応募があったという。僕についたガイドは、政府の外交儀典官というエリート職を擲っての転職だった。

国の収入の3割は外国(特に隣国インド)からの助成金である。

テレビが1999年に、携帯電話が2003年に、ネットが2005年に解禁された。
携帯電話は既に人口の6割強に普及しており、ガイドは「そのせいで離婚が増えた」と話していた(浮気が増えたのか、浮気が発覚しやすくなったのか・・・)。
テレビが解禁されるまでブータンは事実上「情報鎖国」の状態にあったが、テレビ解禁後は海外の映画やドラマの影響で、若者のファッションなど人々の嗜好が変わりつつあるという。
ネットの普及率は人口比6%と未だ低いが(日本は70%以上)、今後普及が進んで、人々がより容易に国外の情報に接することになったとき、はたしてどのような変化が起こるのだろうか。

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ブータンはすばらしい国だ。
旅行者として訪れたら、ネガティブな印象を持つ人はおそらくいないだろう。

だが、ブータン国民に生まれ変わりたいかと問われたら、僕の答えはノーだ。
日本人としての生活の記憶がリセットされるならイエスかもしれないが。

そして、テレビやネットで国の外を知ったブータンの人々が、日本人のような生活をしたいと言い始めたら、僕は止めることはできない。そんな権利もない。

一方で、これからの日本にとって、ブータン的な生き方、すなわち「足るを知る生き方」が必要であることも承知している。
さて、どうしたものか。
答えなし。考える。

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冒頭の写真はブータン、ティンプー郊外にて。まだ小さい子どもたちが、さらに幼い弟や妹の面倒を見る。昔の日本もこうだったのだろう。昔は良かったとも、昔は大変だったとも言える。


2012年3月19日月曜日

irukaの見積


中国の工場から、ざっくりながらiruka量産見積をもらった。
見積というか、まあラフな下見積かな。
これを叩き台にして詳細を検討していくという。

見積は大きく分けて二つ、初期コストと量産単価、つまり量産を始めるためにかかる金額と、作り始めてから1台当たりいくらで作れるか、に分かれている。

初期コストというのは、金型と溶接治具の代金。
金型にはパイプの押出成型型と、カタマリ部分の鍛造型がある。

量産単価は、各パーツの仕入・フレーム溶接・組立ひっくるめて1台いくらで出荷するかの金額。
輸送費の負担の仕方によって、FOBかCIFで見積るのが一般的。

FOB=Free on Boardというのは、輸出港(たぶん上海)で船に荷積みするまで。
CIF=Cost, Insurance and Freightは、輸入港(たぶん大阪)に荷揚げするまで。

FOBの場合は自分で船と保険を手配する必要があるが、混載コンテナを使えることで多少割高になるけど一回あたりの発注ロットを小さくできる。
CIFだとコンテナ一つをチャーターすることになるので、ロットは大きくなるが単価は抑えやすい。
この辺りはただ今ドロナワ式に勉強中です。

見積の通貨はRMB(人民元)ではなくてUSD(米ドル)で、注意書きに「1USD=◯RMBプラスマイナスいくらのときのみ有効。その範囲を超えて為替が動いたら見積も修正される」と書いてある。
中国政府は巨額の為替介入を行うことで人為的に対米ドル固定相場制を作り上げている、ということが実感されますな。

初期コストも量産単価も、詳しくはこれから詰めてくけど、だいたい想定内な感じではある。

試作は別途進行中なので、量産がすぐ始まるわけではないんだけど、見積があると何かこう、具体的に迫ってくるものがあります。

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治具って英語のjigの当て字なんだって。知らなんだ。

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写真はフィリピン、サンジュアンのビーチにて。


2012年3月12日月曜日

台湾でタダ飯にありつくの巻


台北サイクルショーは、エンドユーザー向けのお披露目を主眼とした日本のサイクルモードと異なり、台湾のメーカーが国内外のバイヤーに自社製品を売り込む商談の場。

出展者からすると、新規開拓の意味合いもあるけど、海外の取引先がわざわざ来てくれる数少ない機会でもある。
特に、欧米の企業が台湾に来るなんて年に何回もあるわけではない。

よって、台北ショーの期間中は、台湾メーカーが取引先を招いたパーティが、市内の至るところで繰り広げられる。

んで、今回そのうちのひとつ、某H社(仮名)のパーティに行ってきました。

打合せ相手である台湾のコーディネータから「H社って会社のパーティに行くから、君らも招待するよ」と言われて行ったんだけど、考えてみたら、他人様の会社のパーティに自分とこの取引先を勝手に招くか?w
呼ぶ方も行く方も厚かましいし、主催者はいい迷惑だろwww

・・・と思っていたんだけど、行ってみたら違いました。

H社はステムやフォークを中心としたパーツメーカーで、深センの株式市場に上場してるくらいの大企業。さらに今回は創業40周年パーティを兼ねているということで、気合が入ってるわけです。

体育館みたいなだだっ広い会場に、10人がけのテーブルが60卓、つまりキャパ600人。
でけえよ。
ヤワラちゃんの結婚式か(→古い)。

体育館バリにでけえ会場全景


お客は欧米人が3分の1くらいかなあ、あと日本人もそこそこいた。

で、どうも僕たちのように、H社とは直接関係はないんだけど取引先に呼ばれて来ました、という人がかなりいる感じなんですよね。

そこでハタと気づいた。
「H社にとっては、パーティにわんさか人が集まってることが大事なんだ!」

やっぱり、中国人て「数」が好きなんですよ。

よく言われる話で、中国の工場は、1万円×1000個を作る案件と1000円×1万個を作る案件があったら、必ず後者、数が多い案件を選ぶ、というのがある。
特に合理的な理由はなく、とにかく数が多い方が好きなんだと。
(その点irukaは典型的な高単価・少量の案件なので話を進めるのに苦労するわけです)

パーティも同じで、せっかく遠く海外からも取引先が来てくれてんだから500人くらい集めないとカッコつかないじゃん?的なマインドセットなんでしょうね。

つまり我々はタダ飯にありつくために来た招かれざる客ではなく、H社のパーティを盛況にするためにやってきて、その対価としてタダ飯を食べているのだ!
そう気づいてからはすっかりくつろいで、遠慮なくがっつり飲み食いしてまいりましたw

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ゲストの半分近くが外国人て、グローバル展開してる企業のパーティならではで、いいな、と思った。

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冒頭の写真は台北市街の寺院。ひっきりなしに市民がお詣りに訪れる。


2012年3月10日土曜日

台北サイクルショーに行ってきた


台湾のコーディネーターおよび工場との打合せがてら、台北サイクルショーに行ってきました。
ミーティングの内容は、今はちょっと詳しく書きづらいので、今日はサイクルショーについて。

台北ショーは、上海ショー、ドイツユーロバイクに並ぶ世界三大自転車ショーの一つです。

日本にも国内最大規模の自転車ショーとして秋の「サイクルモード」があるけど、台北ショーとは、ちょっと、というかかなり違う。

違いを一言で言うと、日本のサイクルモードは国内外メーカーが日本の消費者に製品をお披露目する「B2Cのプロモーションの場」であるのに対し、台北ショーは主に台湾メーカーが海外企業に自社製品を売り込む「B2Bの商談の場」である、ということ。

日本は、自転車製造業はほとんど存在しない一方(昔、日本人の人件費が安かった頃はいっぱいあったけど)、マーケットとしてはそこそこ大きい。
かたや台湾は中国と並ぶ「世界の自転車工場」である一方、人口2300万人でマーケットとしては大きくない。

ので、客層も違うしコンテンツも違う。
サイクルモードの客層は日本人のエンドユーザーがメインで、試乗コーナーとか有名人のトークショーとかエンドユーザー向けコンテンツが充実してる。開催期間も金土日。

台北ショーの客層は欧米はじめ雑多な国のバイヤーがメイン。エンドユーザー向けコンテンツはほとんどないかわりに、どの企業もブースの裏手や二階に商談コーナーを作ってがっちり営業にいそしんでる(出展代金は面積で決まるから、ブースを二階建てにして上に商談スペースを作れば安く上がるわけ)。開催期間は水木金土。

僕は三回目の参加だけど、最近はやっぱり電動アシストが熱い様子。
バッテリーもモーターも小型化が進んで、形状もだいぶ自由に作れるようになり、「いかに電動アシストぽく見えないか」がかなり進んできた感じ。
日本は電動アシスト車の規制が厳しくて、海外メーカーもあまり積極的に日本に進出してこない。ガラパゴス化の予感。

写真貼っときます。

会場の南港エキジビションホール。


中に入るとブースいっぱい。


デザインアワードは毎年やってる。今年の入賞作の一つ。


進化著しい電動アシスト自転車。ダウンチューブにバッテリーを埋め込んだタイプ。


同じく電動アシスト。こちらはシートポストにバッテリーが。


GIANTの電動アシスト車。見た目は野暮ったいけどチューブに埋め込むより交換は楽かも。


シートポストにモーターを埋め込んだ電動アシスト車。よく考えるもんだね。


もちろん折りたたみ車もチェック。でも最近は大きなイノベーションはないね。やはりirukaが待たれるw


おまけ。台北市内。スクーターだらけ。みんな自転車乗ろうよ。


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冒頭の写真は台北市街の密林的街路樹。やはり熱帯の国なのだ。


2012年3月2日金曜日

拡散する前に考えよう


武田邦彦・中部大学教授が被災地瓦礫の受入に反対して書かれたブログが、Twitterなどで結構な勢いで拡散していました。

原発の話題についてはもうブログは書くまいと思っていたのですが、あまりのトンデモぶりにこれはスルーできないと思い、以下謹んでツッコミます。

武田先生は、瓦礫の持ち出しは汚染を全国に広げるとして、以下のようにおっしゃっています。

(引用ここから)
汚染の可能性
放射能の量としては、1キロ8000ベクレルが基準値なので、2300万トンでは拡散量は約200兆ベクレルになり、日本人ひとりあたり150万ベクレルに相当する。これは1キロ40ベクレルというまともな食材汚染の限界から言うと一人あたり37年間、汚染された食事をすることを意味する。

(引用終わり)

瓦礫1kgあたり汚染8000Bq × 瓦礫総量2300万t = 全国に拡散する汚染総量 約200兆Bq
200兆Bq ÷ 日本の人口1.3億人 = 150万Bq/人
150万Bq/人 = 1kgあたり40Bqの汚染食品を2.8kg × 365日 × 37年食べ続けるのと同じ

という計算をされているわけですね。
勘違いなのか故意なのかわかりませんが、ここには以下3つの根本的な間違いがあります。

瓦礫1kgあたり汚染8000ベクレル
8000ベクレルという数値は、政府が「1kgあたり8000ベクレル以下の『焼却灰』なら埋め立てていいよ」と言っている基準値であり、実際の汚染度でもなければ、そもそも『焼却前の瓦礫そのもの』に関わる基準値でもありません。
受入側の多くの自治体は「1kgあたり100ベクレル以下の瓦礫」を受入基準としていますが、実際の汚染度は、例えば静岡県島田市が「岩手の瓦礫を調べたら1kgあたり15ベクレルでした」と発表したのに対し、瓦礫受入反対派の方が陸前高田の瓦礫を計測して「1kgあたり41ベクレルも汚染してる!」と懸念を示しているくらいのレベルです。
100ベクレルとしても・・・8000ベクレルの80分の1ですね。

瓦礫総量2300万トン
被災地の外で処理されるのは、全瓦礫の2割だそうです。武田先生もブログの前段でそう強調されているのですが、なぜか後段では「全ての瓦礫が日本全国に拡散する」として計算しています。

一人あたり150万ベクレル→1kgあたり40ベクレルの汚染食品を37年食べ続けるのと同じ
先生、瓦礫食べちゃってますよね?瓦礫って各家庭に配られるわけじゃないですよね?しかるべき場所に集めて埋め立てられるわけですよね?
もちろん、放射性物質が空中に舞って呼吸で体内に入ったり、焼却灰が雨に溶けて飲料水として飲んじゃった、みたいな懸念はあるでしょうが、食べるのとはわけが違います。

というわけで、より正確に書きなおすとこうなります。

瓦礫1kgあたり汚染100Bq(多くの県の受入基準上限) × 瓦礫総量2300万t × 20%(被災地外での処理率)= 全国に拡散する汚染総量の上限 4600億Bq
→受入上限値を用いても武田先生の計算の400分の1。実際は1000分の1を下回るでしょう。

瓦礫は各家庭に配られるわけではないので、国民一人あたりを計算しても意味はないですが、参考までに1.3億人で割ると1人あたり3500ベクレル。

瓦礫は食べるわけではないので、食品に換算しても意味はないですが、参考までに3500ベクレルのセシウム137が付着した瓦礫をまるごと食べたとしても、内部被曝の総量は45マイクロシーベルト(= 0.045ミリシーベルト)。
いや、本当に意味がないですが、武田先生の論法に沿って計算してみただけですので悪しからず。
*ベクレルとシーベルトの換算はこちらのサイトを使いました。

僕は瓦礫受入は被災地の早期復興のために早急に進めるべきと思っていますが、安全と考えるか危険と考えるかは主観ですから、反対だという人ももちろんいらっしゃるでしょう。
異なる考えがあるのは当然ですし、それでよいと思います。

ただ、これだけは主張したい。
武田先生の発言に限りませんが(武田先生については特に注意が必要ですが...)、この種の情報は、安易に拡散する前にいったん自分の頭で正しいかどうか考えてみませんか?
これくらい、ググって電卓を叩けばすぐ検証できるんですから。

僕のこのブログも、拡散前にまずご自分で検証をお願いしますねw

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他にも先生はブログ中に「瓦礫の量は阪神大震災とさほど変わらないのに、なぜ今回は被災地の外に持ち出すのか」「瓦礫の処理費用単価が阪神のときより3倍高い。根拠なく不当だ」などと書かれています。しかし、阪神でも千葉や岡山など他県が処理に協力していますし、コストについては海水の塩分洗浄や放射線検査の費用が余分にかかる上に被災地域が広汎なため搬出コストも高いという説明が公式になされていますね。

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瓦礫受入に賛否あるのは理解できますが、例えば岩手県の釜石市や宮古市から福島第一原発までの距離は、東京からの距離とほぼ同じくらいであることは知っておいた方がよいと思います。

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写真はフィリピン、サンジュアンにて。カラフルな漁船。