2012年9月28日金曜日

デモ前夜、中国にて

9月17日、iruka試作第三弾引き取りのため、僕は同行デザイナー角南さんと共に上海浦東空港に降り立った。

台湾人コーディネータのSherryが、ドライバーを連れて到着口で待ってくれている。
彼らの迎えのクルマで空港から工場のある江蘇省太倉市に直行するのがいつものコースだ。

挨拶もそこそこに、Sherryが真顔で口を開く。


「あー、Kobayashiさん、明日太倉でも反日デモがある。だから人のいるところでは日本語を話さない方がいい。できるだけ静かにしていて。あと、今日と明日の夜は、ホテルに戻ったら一人で街に出ない方がいいと思う」

9月18日に中国全土の都市で一斉に反日デモがあることは知っていたが、人口50万人弱の太倉でも行われるとは思っていなかった。ナイーブの謗りは免れない。

「Mobだね。気をつけないとね」


大げさだと言ってほしくてMobという単語を使ったのだが、Sherryは変わらず真顔だった。


「そう、Mob」

初日の打合せを終えて工場のマネージャーらとホテルのレストランで夕食をとった後、Sherryと彼女のボスJenniferから、軽く飲みに行こうと誘われた(角南さんは別プロジェクトの用件でなんと夕食後に混山の工場に連れて行かれてしまったw)。
僕も前に一度行ったことがあるが、在中ドイツ人など白人のたまり場になっているエリアがあり、そこなら心配ないだろうから、と言う。太倉にはボッシュグループなどドイツ企業の工場が多いのだ。

外国人客の多い一軒のバーに入って飲み始めていると、10人近い中国人グループがどやどやと店に入ってきて、僕たちのすぐ後ろのテーブルに陣取った。
一人だけ女性がいたが、あとは全員30〜40代の男性だ。他で飲んで来たのだろう、皆既に顔が赤く、笑い声が大きい。

あー、ちょっと嫌な感じだな、と思っていると、その中の一人がSherryとJenniferの台湾語を聞きつけたらしく、僕たちのテーブルにやってきた(僕にはよくわからないが、中国語と台湾語はだいぶ違う)。台湾人とは珍しいね、一緒にビールでも飲もうよ、という意味のことを言ったらしい。手にバドワイザーの瓶を三本ぶら下げている。

JenniferとSherryは如才なく男の相手をする。中国語なので僕には何を言っているかわからない。Jenniferが僕に耳打ちする。


「念のため、あなたは韓国人だと言っておいた」

オー、ハンゴー(韓国人)、アニョハセヨー!

男が僕に握手と乾杯を求めてくる。アニョハセヨ。成り行きに戸惑いつつ、僕も握手を返す。

おい、韓国人だってよ!とでも男が言ったのか、さらに別の男が乾杯を求めて来て、二人はそのまま僕たちのテーブルにいついてしまった。

さらに数人がこちらのテーブルに合流し、早口の中国語で話し始める。リーベン(日本)という単語が混じる気がする。時折、激したように声が大きくなる。それが彼らが機嫌よく酔っているからなのか、リーベンという単語が関係しているのか、僕にはわからない。

白状します。僕はびびっていた。

彼らも(僕と同様に)韓国語はわからないようだが、英語ができる人間がいて韓国のことを聞かれたら一言も答えられない。もし彼らが明日の反日デモに参加するようなグループで、僕が日本人だと知ったら。粗暴な人たちには見えないが、アルコールも入っているし、集団心理で何か起こってもおかしくないではないか。

早く自分たちのテーブルに戻ってくれ、と思いながら、味がよくわからなくなったビールをちびちびなめる。

しばらく男たちと話していたJenniferが、僕に向き直って唐突に言った。


「今あなたが実は日本人だと彼らに伝えた。彼らは反日デモが恥ずかしいことだと言っている。あなたに韓国人だなんてウソをつかせて申し訳なかったとも言っている」

最初にテーブルに来た男は地元の有力企業の経営者、二人目は太倉市役所の上級職員だという。経営者だという男が「I’m sorry, we are friends」と言いながら再び握手を求めてくる。

あー、何て言えばいいんだろ、Sorryなんて言われてもこっちが勝手に出まかせを言っただけなんだから、It’s OKとかNever mindじゃ逆に申し訳ないよな、などと思いながら、「We are friends, I believe so too」と何とか言葉をひねり出して握手を返した。

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翌日9月18日、ホテルから工場に向かう車中から、デモ隊の姿を目にした。交通規制が敷かれて、思ったよりも整然とした印象だった。デモは昼には終わったらしく、夜工場から戻ったときは、街はすっかり平穏な、いつもの姿に戻っていた。

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日中・日韓の領土問題に関してはいくつか言いたいことがあるが、とりあえず一言だけ。まあ、何というか、一部のポピュリズム政治家や狂信家に乗せられて、
対立を深めてはいけない。尖閣諸島とはなーんの関係もない地方自治体の、目立ちたがりなだけの首長とかさ。

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冒頭の写真は夜のクスコ。毎度のことながら内容には関係なし。クスコはやばい。特に夜。



2012年9月21日金曜日

第八話 イルカ、来日


えーと、タイトルの元ネタは・・・ま、わかる人はわかりますねw 

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irukaたん試作第三弾、このほど中国・太倉市の工場で完成し、日本に引き取ってまいりました。

中国の人たち、不明な点があったり指定したパーツが見つからないと、こちらに確認することなく明るく違う作り方で作ったり、違うパーツをくっつけたり、時にはその箇所ごと作ることを華麗にスルーして、とりあえず完成させちゃう。それで性能に支障がなければ別にいいんだけど、割と支障があるw 

というわけで、滞在中は同行デザイナーの角南さんと工場スタッフと共に時間ぎりぎりまであーだこーだと作業してました。現物を作って初めて見えることもたくさんあったしね。

そして工場を疾走するirukaたん。乗ってるのは角南さん。



成田からオフィスに託送されてきたirukaたん in ダンボール。狭くて不憫だったねえ。よしよし。



肝心の出来は・・・この段階の試作としては、良いですよ!
もう少々手を入れてから、関係各位には少しずつお披露目&ご意見伺いしていきたいと思ってます。

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写真はマチュピチュ。中国行きの前に、両親を連れて南米旅行に行っておりました。