2012年8月27日月曜日

軽い駐輪場


政策を評価する上では、その政策の効果そのものももちろんだが、「重さ・軽さ」も重視すべきだ。

例えば、前回述べた自転車レーンについて言うと「柵で車道から完全に分離された自転車レーンを作る」というのは、政策としては「重い」。

自転車ユーザーとしては理想的だが、柵を作るコスト、工事期間の長さ、緊急車両も停止できない、トラックの荷さばきどうすんだ、タクシーは?などなど、調整すべき課題が多すぎて結局実現しない。
もしくは、非常に小規模な「社会実験」で終わってしまう。

逆に「車道端1.5メートル幅を自転車レーンとして青く塗る」という政策は「軽い」。

コストは安く、工期も短い。緊急車両は停止可、トラックの荷さばきは時間限定で可、タクシーは乗降可能な区間を定める、など柔軟に運用していけばよい。

東京駅周辺で放置自転車が増えている、という。

原因は、駐輪場の不足である。

に対して『千代田区は「23年にJR東日本に駐輪場設置を依頼したが断られた。あの辺りに区有地はないし…」と困り顔だ』というが、東京駅の近くに何千台も収容できる大規模駐輪場を作るという政策は、重い。とんでもなく重い。

都市における駐輪スペース不足解消に関しては、実は「軽い」政策がある。

歩道上の植栽をつぶして小規模駐輪場に作り替えること、である。



写真は明治通りだが、日本の街にはなぜかこのような低潅木の植栽が非常に多い。
街の緑化の目的で普及したのだと思うが、多くはご覧のように手入れは行き届いていないし、中には雑草が伸び放題だったり、ゴミ捨て場と化していたり、美観の点では多くが逆効果になってしまっている。

この植栽スペースを、駐輪スペースにする。

駐輪場といっても、作るのはこれでOK。



写真はドイツのローテンブルクだが、ヨーロッパの街にはこのような「自転車をくくりつける金属バーだけ」の極小規模駐輪場が多い。

このやり方であれば、都心に1万台規模の駐輪スペースを一気に作ることができる。
大規模駐輪場に比べて設置コスト・運用コストが格段に安いなど「軽い」のみならず、自転車ユーザーにとっては駐輪スペースは大規模集中型より小規模点在型の方がメリットは大きい。

自転車レーン同様に、行政が動けば/行政を動かせば、十分に実現可能。

日本も、東京も、やればできるんです。絶対に。

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自転車レーンのエントリはTwitterで猪瀬直樹・東京都副知事に読んで頂けないかメンションを飛ばしたが今のところ反応なし。

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冒頭の写真はイタリアの海沿いの街ヴィアレッジョにて。毎度ながら内容とは関係なし。


2012年8月17日金曜日

オリンピックで街は変わる(ただし東京を除く)


オリンピックが終わりましたね。

このエントリとオリンピックの関係については後で書くとして、まずファクトを提示します。

各都市の自転車レーン総延長距離:
ロンドン 900km
ニューヨーク 675km
パリ 500km
東京 11km


え?見間違えたかな?と思った人もいるかもしれませんね。もう一回どうぞ。

各都市の自転車レーン総延長距離:
ロンドン 900km
ニューヨーク 675km
パリ 500km
東京 11km


僕は何度かこのブログで、自転車活用に関して東京がいかに遅れているかを書いてきましたが、改めて数字にして並べるてみると愕然とします。
(過去エントリ:自転車レーンを作るのだ 丸の内に駐輪場を作るのだ

なぜこれほどまでに違うのでしょうか。
東京には、自転車レーンを作れない特殊な事情でもあるのでしょうか。

ありません。

違うのは、行政のやる気だけです。

他の三都市とも、かつては、といってもつい最近まで「自転車に優しくない街」として有名でした。
ところが、ロンドンはボリス・ジョンソン市長が2008年に、ニューヨークはブルームバーグ市長が2001年に、パリはドラノエ市長が2001年に就任してから、劇的に変化しました。
パリなんて1995年の時点では自転車レーンの総延長はわずか8kmしかなかったのです。
ニューヨークとロンドンも、程度の差こそあれ似たような状況でした。

パリとロンドンは、自転車レーンの拡充のみならず、コミュニティサイクルと呼ばれるレンタル自転車ネットワークも導入しており、ニューヨークも計画中と聞いています。

行政が、特に首長がやる気を出せば、街は大きく変わるのです。

では、なぜこれらの都市は自転車インフラを強化しているのでしょうか。

自転車だけに注目すると、本質を見誤ります。
自転車活用促進は、単独の政策ではなく、より複合的・長期的な都市政策の一つでしかありません。

それは「クルマ社会からの移行」です。

ロンドンやニューヨークなど世界の大都市の多くは、長年クルマ優先の街づくりが進んだ結果、慢性的な渋滞、大気汚染、ヒートアイランド化、交通事故、景観破壊、駐車スペース不足などの問題に悩まされてきました。

より安全かつ環境負荷の低い都市へと変貌を果たすため、都心からクルマを減らすこと、そのために市民がクルマより自転車や電車・バスなどの公共交通機関をより利用したくなるように政策を整備することが、各都市共通の基本方針なのです。

そこで、いずれの都市も、ある程度クルマの利便性をあえて損なう政策(ペナルティ)と、クルマ以外の移動手段の利便性を向上させる政策(インセンティブ)を組み合わせて導入しています。

ロンドンは、都心20平方キロ内でクルマに乗るには課徴金が必要です。
ニューヨークは、タイムズスクエア前などいくつかの目抜き通りを歩行者天国にしました。
パリは、市内の道路の2割近くを、制限速度を30km以下とする「ゾーン30」に指定しています。

自転車活用促進は、複合的な都市交通政策のうちの一つであることがよくわかると思います。

さて、なぜ冒頭でオリンピック云々と書いたのか。

東京都は、2020年オリンピック開催都市に立候補しています。

ロンドンオリンピック期間中、現地に視察に赴いた猪瀬直樹・東京都副知事が「ぜひ東京でこの感動を」と訴えるツイートを繰り返し、僕のタイムライン上でも賛同する声が大いに盛り上がっていました。

東京都はオリンピック招致にあたって次のように述べています。

「東京の都市戦略として策定した「10年後の東京」計画に基づき、超高齢化社会への対応、子供たちの健全な育成、さらには交通渋滞の解消など、より安心・安全で快適なまちづくりに取り組んでいます。オリンピック・パラリンピックはこうした取り組みを加速させ、東京をさらに暮らしやすい街へと生まれ変わらせます」(2016年オリンピック招致サイトFAQより)。

「10年後の東京」と銘打った都市戦略があり、それをオリンピックによって加速させるというのです。

すばらしい。

リオデジャネイロも、オリンピックを機に自転車レーンを300kmまで拡充するそうです。
ロンドンも、オリンピックまでに渋滞を減らそうという思いが自転車レーン設置を加速させたと聞きます。
渋滞と大気汚染が世界最悪と言われる北京は、オリンピックをきっかけに導入した自動車ナンバー別走行規制を、2013年まで継続することを決めました。

オリンピックは、街を変えるチャンスなのです。

僕は東京オリンピックそのものには特に乗り気ではありませんでしたが、これを機に東京が美しくサスティナブルな、自転車フレンドリーな街に生まれ変わるなら、全力で開催を支持します。

では、その東京都の都市戦略「10年後の東京」を見てみましょう。わくわく。

こちらをどうぞ!

・・・。

時間がある方はご自分の目で確かめてください。

自転車のジの字もありません(*)。

別に全て外国のマネをすべきとは思いませんが、ロンドン、ニューヨーク、パリという世界三大都市が、安全と環境のために、都心からクルマを減らして自転車と公共交通機関の活用を促すべきという結論に至っているわけです。
自転車活用促進は、囲碁でいえば定石の政策であるといえるでしょう。

東京都はそんな定石はガン無視です。

まあ別に定石を用いなくても、それにかわるだけの効果的なプランがあるなら構いません。
ところが、交通に関しては環状道路を整備して渋滞を減らす環境に関しては緑化と再生エネルギー導入を進めてCO2を25%削減する、としかありません。

僕が自転車ファンであること、自転車ビジネスに携わっていることを抜きにしても、これはあまりにも、あまりにもお粗末です。

なんというか、まあ、賭けてもいいですが、これでは10年後の東京は何も変わらないでしょうね。

・・・というわけで僕は現在の東京都の都市政策とオリンピック招致計画には、大いに失望しています。

が、絶望はしていません。
リーダーシップが変われば街は大きく変わることが、ロンドン、ニューヨーク、パリを見てわかっていますから。

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*一応こちらの46ページに「自転車道を整備」との文言がありますが、見ていただければわかるとおり完全なやっつけ記述ですので無視します。

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冒頭の写真はヴェネツィアの裏路地。ていうか裏水路。


2012年8月10日金曜日

試作第三弾、その後


遅れたら嫌だなと思って詳しくは書いていなかったんだけど、中国で進行中のiruka試作第三弾は7月中には完成する予定だった。

が、案の定遅れたw

工場側の作業はほぼ順調だったのだが、パーツが揃わない、と言う。

自転車製造業は、大雑把に言うと、GIANTのような完成車メーカーと、シマノに代表されるパーツメーカーに分けられる。

完成車メーカーは各パーツメーカーからブレーキやギア、ペダル、サドル、チェーンなどのパーツを調達してフレームに組み付け、一台の自転車に仕上げる。

ゆえにパーツがひとつでも届かないと自転車は完成しない。

パーツメーカーとして圧倒的なトップシェアを誇るのが、我らが日本のシマノ
特にブレーキと変速機では世界シェア80%という、とてつもないガリバー企業であり、irukaにおいても内装ギアなどいくつかの箇所で使う予定で進めている。

圧倒的ガリバー、ゆえにこのシマノさん、常に注文が殺到していて納期が厳しい。
また、自転車業界では有名な話だが、ちょいとばかり、えーと何と言えばカドが立たないか、余裕があらせられる、うーん違う、ごゆるりとされている、何言ってるかわかんなくなってきた。

・・・要するにシマノのパーツが来ないので完成の目処が立たないと言うのである。

ということを懇意にしていただいている自転車ショップ社長に相談したら「そのパーツうちで仕入れられるから、日本で調達して中国に送っちゃえば?」とのアドバイス。

全然それでいいっす。
てかそれがいい(小売価格で買うので少しばかり高くつくけど)。

というわけで先ほど横浜某店に届いたパーツたちを引き取りに行き、そのまま近くの郵便局からEMSで中国に発送してきたところ。

試作第三弾、9/17からの中国出張にて引取予定。

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写真はフィレンツェ、夜のドゥオモ。