2013年9月25日水曜日

ニッポンよ、これが自転車インフラの世界標準だ(Vol. 2 駐輪場編〜後編)

ヨーロッパの自転車インフラ事情紹介シリーズ駐輪場編、後編です。

前回は、議論の前提として「経由地の駐輪場(そこに自転車を置いて鉄道など別の交通機関で別の場所に行くための駐輪場)として大規模集中型も必要だけど、目的地の駐輪場(そこに自転車を置いて近くで用を足すための駐輪場)として小規模分散型もあると便利」、という話を書きました。

というわけで今回は、先日の旅行で撮ってきた、ヨーロッパ3ヶ国8つの街の小規模分散型駐輪場をご覧いただきます。

1. オーストリア、インスブルック
これが基本形。数台〜10台程度の自転車をくくりつける金属バーが路上にあるだけ、というものです。


2. オーストリア、インスブルック
前の写真は金属バーを置いただけの可動バージョンですが、こちらはバーを埋め込んで固定したバージョンです。


3. オーストリア、ハル
同じく、埋め込み固定バージョン。


4. オーストリア、インスブルック
同じく埋め込み固定バージョンですが、歩行者天国にありました。そのせいかデザインもおしゃれ。


5. オーストリア、ザルツブルク
斜め置きにすることで、車道上でも幅をとらないように工夫しています。


6. ドイツ、ガルミッシュ・パルテンキルヘン
歩道上でも斜め置きにすることで歩行空間と折り合いをつけています。


7. イタリア、ブレッサノーネ
少し大きめのバージョンです。


8. イタリア、ブレッサノーネ


9. オーストリア、ザンクトアントン
企業広告つきです。どういうビジネスモデルで成り立っているのか非常に興味があります。どなたかご存じありませんか?


10. ドイツ、ミッテンヴァルト
同じく、企業広告つき。


11. オーストリア、ハルシュタット
今回見た中で最小です。わずか3台分。う〜ん、小規模分散。


12. オーストリア、パッチャーコーフェル
形は普通ですが、ここはなんと標高2000メートルの山頂なのです。マウンテンバイカー用に置いてあるんですね。ちなみに広告主のZipferというのはオーストリアのビールメーカーです。


13. オーストリア、インスブルック
ちょっと変わり種、街路樹を活用したバージョンです。


いかがですか?
おそらくほとんどの方が、これは良い、日本でもあればよいのに、と思うのではないでしょうか。

と同時に、こんな疑問を持たれると思います。

「日本でも作るとしたら、スペースはどうするの?」

はい、スペースはここに作りましょう。


歩道上の植栽を、駐輪場に一部転換するのです

以前も同じことを書きましたが、日本の歩道には低灌木の植栽が非常に多いです。
元々は街の緑化が目的で始まったのだと思いますが、その多くが手入れも管理も行き届いておらず、景観の点でもスペース活用の点でも逆効果になっているところが目につきます。

246沿い。お店の看板立てと化しています。手前の駐輪禁止サインがなんとも皮肉です。


表参道沿い。ゴミ回収場を兼ねているためか、いつもゴミが散乱しています。


商業エリアの主要道路沿い数百メートルおきに植栽の一部を舗装しなおして、上で見たような金属バーを置く。
この形態であれば、行政が意思決定さえすれば、東京都心に数千〜1万台規模の駐輪スペースを一気呵成に作ることができます。
コスト面のメリットも大きいでしょう。おそらく1ヶ所あたり数万円単位、1台あたり単価は1万円を切ることが可能ではないでしょうか(深く検証はしていませんが)。

早い、安い、そして便利な小規模分散型駐輪場。
オリンピックが来る前に、ニッポンでも、トーキョーでも、やりませんか。やりましょうよ!

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冒頭の写真はオーストリアの湖畔の村、ハルシュタット。鉄道の駅から渡し船で対岸の街に渡ります。なかなかの風情。


2013年9月19日木曜日

ニッポンよ、これが自転車インフラの世界標準だ(Vol. 2 駐輪場編〜前編)

前回に続き、旅行で訪れたヨーロッパの自転車インフラ事情を紹介します。今日は駐輪場について。

と言いたいところですが、今日はまず前提を整理しておきたいと思います。

駐輪場に関する議論には、大きく分けて以下の2つの論点があると思っています。

1. 経由地の駐輪場
2. 目的地の駐輪場

前者は「自転車をそこに置いて、別の交通機関に乗り換えて別の場所に行くための駐輪場」のことです。
「家から最寄り駅まで自転車で行って自転車を置き、電車に乗り換えて通勤/通学する」が代表的な利用例ですね。

後者は「自転車をそこに置いて、その近くで用を足すための駐輪場」のことです。
「買い物をする/食事をする/お茶を飲む/出勤する」などがそうです(無数にあります)。

前者と後者では、駐輪場に求められるスペックは大きく異なります。

前者「経由地の駐輪場」は、多くの人がほぼ同じ時間・同じ場所に集まって来ますから、収容台数が大きいこと(あぶれてしまったら別の遠い駐輪場を探すか、撤去覚悟で放置するしかありません)、乗り換えの駅から近いことが最重要です。

一方、後者「目的地の駐輪場」は、人によって目的地が異なる上に、同じ人でもいくつかの目的地を移動することがありますから(複数の店を買い物して回るなど)、同じエリア内に一定間隔で複数の駐輪場がある方が使い勝手は優れています。そのかわりひとつひとつの規模は小さくて構いません。

つまり、経由地の駐輪場には「大規模集中型」が、目的地の駐輪場には「小規模分散型」が望ましいということです。
商業エリアのある一定規模以上の街には、両方ある方が便利ですよね。

しかし、一般的に日本では、駐輪場に関する議論も対策も、前者「経由地の駐輪場」をどうするかということに偏っているように思えます。

例えば、表参道(イルカオフィスの最寄駅です)。
先日、駅出口から100メートルほどの場所に、300台収容の区営駐輪場ができました。



本当に、もう本当にすばらしい。港区ブラボー。
あんな一等地によくぞこんな立派な駐輪場を、です。港区の英断ですね。
駅まで1分もかからず、収容台数もかなりのもの。
典型的な「大規模集中型」であり、「経由地の駐輪場」としては完璧です。

ただ、(苦言ではなく事実として)駅には行かず表参道で買い物を楽しもうとすると、例えば表参道ヒルズまでは5分ほど、東急プラザには10分弱歩く必要があります。(*)
決して悪くはないのですが、表参道という東京を代表するショッピングエリアの「目的地の駐輪場」としては、もうひと声という感じなのです。

そこで、もし表参道の通り沿い100メートルおきくらいに、「小規模分散型駐輪場」があったらどうでしょう。

・・・と言っても、ピンとこない方々がほとんどだと思います。日本ではほとんど見かけませんから。
というわけで次回は、先日のヨーロッパ旅行で撮影してきた、墺独伊3ヶ国8つの街の、小規模分散型駐輪場の写真をご覧いただきます。

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*表参道ヒルズには来客用駐輪場がありますが、東急プラザにはありません。

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冒頭の写真はインスブルック、朝焼けのイン川。


2013年9月17日火曜日

ニッポンよ、これが自転車インフラの世界標準だ(Vol. 1 自転車レーン編)

2週間ほどヨーロッパに旅行に行ってました。
オーストリア西部のインスブルックという街にホテルをとって根城とし、そこからハブ&スポーク式にオーストリア国内とドイツイタリアに足を伸ばしてきました。
オーストリアは延べ35ヶ国目、ヨーロッパでは11ヶ国目の旅先です。

旅行そのものもとても楽しかったですが、自転車インフラに関しても「さすがヨーロッパ」と感じる光景をいくつも目にしたので、今日から何回かに分けて紹介していきたいと思います。

今日は、滞在地インスブルックの自転車レーンについてです。

インスブルックは「イン川の橋」という意味で、文字どおりイン川という山あいを流れる川沿いに拓けた街です。北の峠(下の写真では手前)を越えるとドイツ、南の峠(下の写真では奥)を越えるとイタリアです。人口は12万人ほど。


ヨーロッパの多くの歴史的な街と同じように、旧市街がしっかり保存されています。


んで、旧市街エリアを出ると、新市街の車道にはばっちり自転車レーンが。
車道の右端(左側通行の日本でいえば車道左端)を、白いペンキで区分しただけの、一番シンプルな形です。


自転車レーンを作るなら、柵などで車道から分離されたレーンを作るより、車道端をペンキで塗るだけの方がよい、と僕は常々思っています
柵などで分離された自転車レーンは一見安全で良さそうですが、初期コストが高い上に、トラックの荷降ろし、タクシーやバスの乗降、緊急車両対応など調整すべき運用上の課題が多いため、往々にしていつまでたっても「社会実験」の域を脱せず、街の全域に広がりません。
塗装レーンは、逆にコストが安く、柔軟に運用できるため、やると決めたら一気呵成に広げることが比較的容易です。
がっちり囲われたレーンが数百メートルだけあるよりも、ペンキ塗りのレーンが街全体を網羅している方が、圧倒的に、もう圧倒的に有益です。

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では次の写真。インスブルック駅前の交差点ですが、自転車レーンが左に曲がっていって、直行する道の自転車レーンにつながっているのがわかりますか(わかりにくいですね・・・)。日本でいえば右折のシチュエーションです。


日本では自転車は二段階右折が義務付けられていますが、こちらでは自転車もクルマと同じ径路で左折していくよう設計されています。自転車が完全にクルマ扱いなわけですね。
直進してくるクルマとの事故の心配(特に夜間など視認性が悪いとき)はあるでしょうが、導線としてはこちらの方が論理的かつ合理的でしょう。

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自転車専用レーンを確保するだけの幅がない道路では、ところどころバスとの共用レーンになっている箇所もあります。


日本ではなぜかバス自転車共用レーンは拒否反応が多いようですが、見る限り共用でなーんも問題ないと思いました。

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こんな感じでございます。

まとめ的にひとつ。
先日「歩行者が最も怖い思いをする自転車の行為は『歩道を猛スピードで走る』ことである」というアンケート調査結果を目にしました。
日本でも最近ようやく車道を走る自転車が増えてはきましたが、それでもまだ歩道を走る自転車が多いということですね。

その点、インスブルックでは(少なくとも僕が見るかぎり)歩道を爆走する自転車はいませんでした。
もちろん交通教育などの成果もあるでしょうが、何と言っても、上述のように「自転車レーンがある=自転車が走るためのスペースが明示され、確保されている」ということが大きな要因のひとつでしょう。

「自転車に優しい街づくりを」という主張は、ともすると自転車乗りのエゴのようにも捉えられがちです。
しかし、自転車レーンが整備された街をつくることは、歩行者が歩道で自転車に脅かされることがない、「歩行者に優しい街づくり」でもあるということです。

人口の4人に一人が高齢者という超高齢社会に突入した日本において、高齢者でも常に安心して歩ける街づくりを進めることは必須のはず。
そのためにも、自転車レーン整備は極めて有効な政策であることを再認識しました。

インスブルックは、別に自転車先進都市でも何でもありません。
世界的には自転車レーン整備は特別な都市交通政策ではなく、むしろ定番中の定番です。逆に言えば、行政のやる気さえあれば、どこの国のどこの街でも、できることなのです。

ニッポンも、トーキョーも、やりましょうよ。
なんなら僕もペンキ塗りやりますよ!いやマジで。

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次回は駐輪場について書きます。

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千葉市が塗装自転車レーンを中心に計330kmの自転車走行空間を整備するという計画を発表しました。
実に、もう実にすばらしいです。

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冒頭の写真はインスブルック、イン橋の旧市街側たもとから対岸を望む。