2013年11月28日木曜日

チャーハンが半球形であるべきたったひとつの科学的理由

本エントリは、記述自体は科学的に正確であると思いますが、そもそも本質的に死ぬほど下らない内容であることをあらかじめお断りしておきます。

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まずはこちらの写真をご覧いただきたい。
渋谷は道玄坂の台湾料理店・麗郷のエビチャーハンである。


飲食店激戦区渋谷において50年以上営業を続けている老舗だけあって、チャーハンをはじめ料理の味にハズレはない。

が、今回注目いただきたいのは、チャーハンの形状である。

おたまによって型押しするように盛られることで形作られた、完璧な半球形。

僕はこの、半球形のチャーハンが大好きだ。
美しく、そして懐かしい。近所のラーメン屋さんの出前が何よりのご馳走であった幼少期の、ノスタルジックな思い出のアイコンなのかもしれない。

しかし残念なことに、どうも最近この形状のチャーハンに遭遇する率が低下しつつある。
主に若い料理人の間で「パラパラ感がなくなる」「安っぽく見える」などの理由で人気がなく、逆に無造作に盛るだけのスタイルが増えているようなのだ。

なんか寂しいけど、そう言われるとそうかもなあ、などとつらつらと(チャーハンを食べながら)考えていたところ、インサイトを得ました。

我発見せり。ユリイカ。

やはりチャーハンは半球形に盛られるべきである」と。

チャーハンとは何か。炒めごはんであります。
では聞こう。おいしい炒めごはんの条件とは何だ。
パラパラ感、調味のバランス、ごはんのほどよい硬さ、など皆さんなりの意見がありましょう。

僕は「熱さ」を第一に挙げたい。

極強火によってしっかり炒め上げられた熱々のチャーハンを、はふはふ言いながら食べる。
これぞチャーハン、これぞ炒めごはんの醍醐味なのである。

物体の放熱量はその表面積に比例する、という物理法則がある。
同じ体積の物体であれば、表面積が大きいほど放熱量が大きい=冷めやすい、ということだ。

アフリカ象は大きく薄い耳を備えることで「表面積を稼ぎ」、体が熱せられすぎるのを防いでいる。
逆に北極アザラシなど寒冷地の動物は体の突起を少なくすることで「表面積を削り」、放熱を小さくしている。



結論を書こう。
半球形チャーハンは、皿に盛ったときに体積に対する表面積の比が最も小さい、すなわち最も冷めにくい形状のチャーハンなのである

以下、具体的な数値を挙げる。

左のチャーハンAは半径6cmの半球形、右のチャーハンBは半径8cm*高さ2cmの平たい円柱形である。

体積はどちらも452cm3(小数点以下の差異は目を瞑っていただきたい)だが、チャーハンAの表面積339cm2に対して、チャーハンBの表面積は559cm2となる。
その比は1.65、つまり、チャーハンBはチャーハンAより1.65倍の早さで冷めてしまう、逆に言えばチャーハンAは熱さがチャーハンBの1.65倍長く保持されるということなのだ。
数値での比較は円柱形のみにとどめるが、半球は体積が等しければ直方体、立方体、四角錐、三角錐などあらゆる形状よりも表面積が小さい。

おわかりですね。
半球形は、熱々チャーハン好きが崇め守り続けていくべき、聖なるフォルムなのである。

・・・チャーハンについてはもっと語りたいことがあるが、長くなると色々な意味でアレなので、このあたりで筆を置くことにする。

半球形チャーハンに幸あれ。

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冒頭の写真はインスブルック郊外、ノルトケッテ南側斜面。


2013年11月15日金曜日

レジェンドに会う

irukaの試作第四弾は、仮にO社と呼ぶが、ある台湾メーカーの中国工場で作っている。

今や世界最大の自転車メーカーとなったGIANTをはじめ、台湾の自転車会社の多くは1960年代・70年代に設立されている。
1966年に設立されたO社も、その例外ではない。

彼らのコミュニティの中で、創業者世代は1st Generations、その息子・娘たち後継者世代は2nd Generationsと呼ばれている。

台湾がまだ貧しかった頃に起業した1st Generationsは、多くがいわゆる叩き上げの人々だ。
GIANTの創業者はウナギの養殖業から、BD-1で有名なPacificの創業者は教師からの転身であるなど、職歴も学歴も様々である。
既に息子や娘に経営を任せて引退したり会長に退いたりした1st Generationsも少なくないが、今でも彼ら同士の人間関係が台湾における自転車ビジネスを大きく左右していると聞く。

小さな部品工場からスタートして、O社を台湾有数の折りたたみ自転車OEMメーカーに育て上げた創業社長W氏もまた、1st Generationsの代表的な人物であり、レジェンドの一人である。

W氏の長男にして現在中国工場のGMを務めるE氏は、2nd Generationsの典型だ。

2nd Generationsは、皆スマートでかっこいい。
多くが欧米や日本の大学の留学経験があり、バイリンガルは当たり前、オーダーメイドのパリっとしたスーツを着こなし、物腰も一様にジェントルである。
1st Generationsの期待と愛情を一身に受け、お金をかけてエリートとして育てられてきたのだ。

E氏とは以前一度食事をご一緒したが、流暢な英語を操り、日本語もわずかだが理解する、知的なジェントルマンである。体にぴったり合ったスーツはいかにも高価そうで、実に洗練された印象であった。

しかし、これまで創業者W氏にはお会いする機会がなかった。
1st Generationsの多くは本社のある台湾で過ごす時間が長いし、海のものとも山のものとも知れない新規ブランドとの取引の場にいちいち顔を出さないのだ。

ところが。
今回お会いできました。

たまたま中国工場に来ていたW氏が、僕たちが作業していた部屋にふらっと現れたのだ。

特に目的があったわけではなく、irukaを見て「なかなかおもしろいじゃん」みたいなことを言って、直立不動の社員たちに二言三言アドバイスめいたことを言って、冗談を言って、ガハハハと笑って、ふらっと出て行って、両手いっぱいに部品類を抱えて戻って来て「これ参考にしろよ」みたいなことを言って、またふらっと出て行った。

ランチをご一緒して、記念写真を一枚。


なんか、かっこよかったなあ、レジェンド。
体操着みたいなTシャツの上に作業服と人民服の合いの子のようなジャケットを着て、さらにその上に丈の合わない背広を着て(スーツより背広という方がしっくり来る)、洗練という言葉の対極にいる感じだけど。
何と言えばいいのだろう、月並みだけど、内面の魅力というか。

男はかくありたいものです。

レジェンドにご馳走してもらったスッポンの炒め。生姜とニンニクがこれでもかというくらいきいてて美味だった。
ごちそうさまでした。


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冒頭の写真はインスブルック旧市街中心部、黄金の小屋根。神聖ローマ皇帝が作ったそうです。


2013年11月14日木曜日

データと実物、そして試作と量産の間に横たわる暗く冷たい溝について

タイトルをムダに村上春樹調にしてみましたがいかがでしょうかダメですかそうですか。

中国太倉の工場で進んでいるiruka試作第四弾の途中チェックのため、先週現地に行ってきました。

いつも午後便で行くので、着いたらばんごはん。今回はモンゴル風羊肉しゃぶしゃぶに舌鼓。
この鍋、ガスも電気も使わないんですよ。中央の煙突みたいな筒の中に炭が入ってて、上の蓋を開け閉めして火力を調整するのです。んまかった。羊アイシテル。


二日目三日目は工場に詰めて、あれこれ作業&指示。


工場側でスタックしていた点はほぼ解消できたので、たぶん年内には完成して引き取りに行けると思います。
んで、それを元に諸々検証して量産のための図面起こしに進むわけですが、現時点で既にわかっていることがあります。

それは【もうちょいゆるく作らにゃいかんな】ということ。

詳しくいうと、量産では製造誤差があることを前提として、それでも狙いどおりの形状・機能になるように、より冗長性をもたせた設計にする、ということです。

例えば、折りたたんだときにデータ上では前輪と後輪がぴったり平行に重なるようになるはずが、試作第四弾の途中チェック段階ではどうもずれちゃってる。
どこか一ヶ所が致命的に間違っているというわけではなく、0.5ミリずつ大きさの違うパーツ同士が0.5°違う角度で溶接された結果、誤差が蓄積されて末端では結構な違いになってしまう、という感じ。
これがデータと実物の間の溝。

それでも試作は一台だけなので、ずれた箇所を丁寧に調整していけば最終的にはデータどおりに完成させることはできる。
しかし量産では百台単位で作るわけなので、一台一台の調整にそんなに時間をかけるわけにはいかない。ていうかできない。
これが試作と量産の間の溝。

というわけで、量産に進むためには、製造誤差があっても成り立つような「ゆるめの」設計が必要になるわけです。
具体的には、折りたたみヒンジの可動域を広げておいたり、パーツ間のスペースを大きくしたり、内部機構をよりシンプルにしたり。
一点モノを作る「工房」と、マスプロダクトを作る「工場」では、設計思想そのものが違うということですね。

ともあれ全体的なジオメトリやルックスは良い感じ。
カッコいい自転車になるのは間違いない。

続報を待て!

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毎度内容と関係ない冒頭の写真はドイツ最高峰、ツークシュピッツェにて。標高3000メートルの山頂までケーブルカーで一気に登る。


2013年11月5日火曜日

サイクルモードデビュー

製品もできていないのにw、サイクルモードでデビューしてしまいました。

以前から色々と教えを請うてお世話になっているNPO自転車活用推進研究会(自活研)さんから光栄にもお声がけいただき、同会が運営するブースのトークイベントで30分間、プレゼンとフリートークをやらせていただきました。

サイクルモードというのは、毎年この時期に幕張メッセで行われる、日本最大の自転車イベントです。
自転車メーカーやパーツメーカーを中心に200近い企業・団体が出展し、期間中には3万人を超える人々が訪れます。


irukaの開発状況、創業から現在までの経緯、irukaを通じて何をしたいのか、東京の自転車インフラ政策提言などの話をパワポを使ってプレゼンさせてもらい、自活研理事の内海さんとタレントのサッシャさんからツッコミを入れていただきました。



ガラガラだったらどうしよう・・・と心配してたのですが、ありがたいことに満席に!
立ち見してくださる方もいらっしゃいました。うれしいです。正樹感激。


内海さん、サッシャさんと。


会場になぜかせんとくんが。
せんとくん大好きなんだ。きもかわいい。ふなっしーやくまモンなんて目じゃないね。
記念撮影。


というわけで、ばっちり楽しませていただきました。
貴重な機会を与えてくださった自活研の小林成基理事長、内海理事、応援に来てくれた友人のみなさんにこの場を借りてお礼申し上げます。
来年こそは、出展者としてブースでお会いしたいと思います。←1年ぶり3度目

では、プレゼンの様子を動画でどうぞ。irukaシルエットチラ見せもあります。



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毎度本文と関係ない冒頭の写真はオーストリアのインスブルック近郊、パッチャーコーフェルからノルトケッテを望む。