テーマはタイトルのとおりですが、長文なので結論を先に書いておきます。
車道走行の徹底によって自転車対クルマの事故は減る可能性が高いだろう。
ただし高齢者が歩道を走り続ける限り死亡事故数の変化は限定的。
車道走行徹底をステップとして自転車レーン拡充の気運を高めたい。
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きっかけはTwitter、@endohiromichi さんという方のツイート。
自転車にはねられて死ぬ歩行者は年間5人、車にはねられて死ぬ自転車の人は年間584人。なのに自転車は車道を走れというのは、全く理解できない。木を見て森を見ず、としか言いようがない。 http://ow.ly/7pfar |
警察庁が自転車の車道走行徹底を図るとアナウンスしたことに対して、対歩行者よりも対クルマの自転車死亡事故が多いのだからむしろ歩道走行を義務化すべき、という趣旨だ。
確かに死亡者数は5人だが、歩行者と自転車の事故はこの10年間で1.5倍に増えており(2000年1,827件→2010年2,760件)自転車の歩道走行義務化など論外である。
が、車道を走ったらクルマとの事故が増えるのではという心配も理解はできる。そこで僕はこう返した。
その事故の7割は自転車が歩道から交差点に出たとき気づかなかった自動車との間に起こるんです。 http://nifty.jp/tbQCyx |
自転車とクルマの事故と聞くと「車道を走っていた自転車がクルマに接触または追突された事故」を思い浮かべるかもしれないが実態は異なりますよ、ということだ。
氏とはその後Mentionのやりとりがあったのだが、僕に認識違いがあったり(自転車の死亡事故の7割が交差点で起きているのは確かだが、全てが歩道走行からではない点など)、説得できるだけのデータを提示できず、何となく結論が出ず終わってしまっていた。
ので、調べました。
まずは警察庁発表の「平成22年中の交通死亡事故の特徴及び道交法違反取締状況について」35ページに状況別の自転車対クルマの死亡事故件数が載っている(並び順は原典のママ)。
状況 | 死亡事故数 | 構成比 |
1 正面衝突 | 32 | 5% |
2 追突 | 72 | 12% |
3 出会い頭 | 321 | 53% |
4 追越・追抜時 | 15 | 2% |
5 進路変更時 | 8 | 1% |
6 すれちがい時 | 2 | 0% |
7 左折時 | 49 | 8% |
8 右折時 | 49 | 8% |
9 横断時 | 31 | 5% |
10 転回時 | 0 | 0% |
11 後退時 | 1 | 0% |
12 その他 | 22 | 4% |
このままでは定義がよくわからないので、警察庁&警視庁に電話して確認してみた。
回答によると、「交差点での事故」に該当するのが3,7,8番。「自転車が車道を走っていてクルマに接触または追突された事故(以下「車道走行での事故」といいます)」が2,4,5番。
この分類に従って括り直すと次のようになる。
@endohiromichi さんが思い浮かべるような事故は95件、死亡事故全体の16%でしかない。
車道走行徹底でこの種の事故は増えるだろうが、その増え幅よりも、歩道走行が減ることによる交差点の事故の減り幅が大きければ、総件数は減ることになる。
では、車道走行での事故の6倍強にあたる419件、全死亡事故の7割を占める交差点での事故のうち、どれほどが自転車の歩道走行から発生しているのか?
全件調査ではなく都内の一部の交差点でのサンプル調査ではあるが、こちらの本に記載があった。
以下に117〜118ページから本文を引用する(各数値は著者が警視庁事故データから作成とのこと)。
信号機のある交差点の事故発生箇所を示した図3.9によると、ほとんどが、歩道から横断歩道に進入したと思われる場所で起こっており、車道から直線的に交差点に進入したと思われる箇所ではほとんど見られない。 また、信号機のない交差点では、出会い頭事故について、歩道から交差点に進入した自転車の事故が約9割(71/79件)、<中略>車道から正規の左側通行で進入した自転車の事故は0%である。 また、左折事故(まきこみ事故)について<中略>歩道から交差点に進入した自転車の事故がほとんど(25/26件)である。 |
あくまでサンプル調査だが、信号機のない交差点では、お互い直進していた状況でも、クルマが左折しようとしていた状況でも、90%以上が自転車の歩道走行から死亡事故が起こっている、ということ。
信号のある交差点では「ほとんど」とあるが、こちらも相当に高いと考えてよいだろう。
多くの人の直感に反すると思うが、相対的に「車道走行は怖いが安全」「歩道走行は怖くないが危険」が事実なのだ。
いずれも歩道と車道の区別のない道での発生率が不明なので確答はできないが、こうして見る限り車道走行を徹底すると、交差点事故の減少 > 車道走行事故の増加 となり、事故の総件数は減少する可能性が高いのではないだろうか。
ただし、ここでもう一つ検証すべき視点がある。「年齢」だ。
財団法人交通事故分析センターの資料(閲覧には会員登録が必要)に、2009年における年齢層別の自転車死亡事故のデータがあった。
年齢層 | 死亡事故数 | 構成比 |
65才未満 | 250 | 36% |
65才以上 | 445 | 64% |
自転車事故の死亡者の3分の2は、65才以上の高齢者なのだ。
警察庁は方針として高齢者には歩道通行を認めるとしており(僕もやむをえないと思う)、多くのお年寄りは「今までどおり」歩道を走るだろう。
そして「今までどおり」交差点でクルマと事故が起きるだろう。
お年寄り以外の事故が減っても、6割強を占めるお年寄りの死亡事故が大きく減らなければ、全体としての減少幅は小さい。それが冒頭に書いた「限定的」の意味だ。
いずれにせよ、最終的に望ましいのは「自転車レーンの拡充」だ。
レーン拡充が先か車道走行が先かというニワトリとタマゴの議論があるが、レーン整備を待っていてはおそらく永遠に何も変わらない。
まずは車道走行の徹底を進めて、自転車レーンが真に望まれる気運を高めるのが先決であると思う。
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産経新聞編集委員による記事(魚拓1 魚拓2)で車道走行は危ないってんだけど、具体的なデータはなんもない。もうホントに、なーーんもない。すげえな。
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冒頭の写真は砧公園のイチョウ。
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