2012年11月8日木曜日

ヘヴィメタル・メリル・ストリープ

前回のエントリでワイヤが云々と言っていたら、新宿のWireというクラブに行ったときの出来事を思い出したので書いてみます。

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2001年だったか2002年だったか、花園神社近くのクラブで、ハードロックナイトがあるというので行ったことがある。

最近はクラシックを聴くことが多いけど、ルーツというか、僕の骨肉となっている音楽はハードロック、特に1980年代のハードロックである。ダサいけど。

僕という人間を玉ねぎのように外側から一枚一枚めくっていって、最後に核とか芯とでも呼ぶべきものが残るとしたら、その成分の15%くらいはハードロックだと思う。実にダサいけど。

今もそうだが、当時も、ハードロックは広く一般的に人気のある音楽ではない。客は多くはないだろうと思っていたが、店に入ってみると、客の数は僕の予想よりさらに少なかった。

少ないかわりに、コアだった。

大音量のジューダスプリーストに合わせて、長髪にロックTシャツの男女が、陶酔した表情で激しくヘッドバンギングしている。エアギター、エアベース、エアドラム、さらにエアヴォーカルもいる(つまりエアでバンドが成立している)。何と言うか、まあ、筋金入りの人たちばかりだった。

僕と連れは先客たちに気圧されて、ダンスに出ることなく何となくバースペースに腰を落ち着けてしまった。ローカルとプロしかいないサーフポイントに、知らずにパドルアウトしてしまったような気分だった。

しばらくアイアンメイデンなどイギリスのバンドの曲が続いた後、ボンジョヴィのI’d die for youのイントロが流れ始めた。キーボードのリフとコード進行がデビューヒット曲のRunawayやBorn to be my babyに似た、シリアスで叙情的な曲である。

座ってビールを飲んでいた僕たちの前に、一人の女性が立った。

年の頃は五十代半ばくらい、痩せて小柄な体、ベリーショートの髪、黒のジャケットに黒のロングスカート。良く言えば意志の強そうな、悪く言えば自己中心的で意地悪そうな顔。後で思うと「プラダを着た悪魔」のメリル・ストリープ、という感じだった。

メリルは口を開いた。

ねえ。どうせ誰も他人のことなんて見てないんだから、好きに楽しめばいいのよ

それだけ言うと、彼女はひらりとダンスフロアのド真ん中に進み出て、誰よりも激しく踊り始めた。

僕と連れは顔を見合わせた。ワオ、彼女は圧倒的に正しい。

僕らはどちらともなく席を立ち、フロアに出て踊った。メリルはもう僕らの方を見ることすらなく、一心不乱に踊り続けていた。

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ボンジョヴィの曲を耳にしたり、花園神社の近くを通ったりすると、時々あのボンジョヴィファンらしき女性の言葉を思い出す。誰も他人のことなんて見てないんだから、好きに楽しめばいい。だよね、メリル。

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ハードロックといえば、来年オズフェストが日本に来るね。

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写真はクスコ。



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